なぜ日本で抹茶が品薄に? 生産を増やしても需要に追いつけない理由

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(最終更新日:2026年9月30日)

2026年9月、シンガポールから宇治を訪れた旅行者は、朝8時15分に小倉駅へ到着し、そこから5~10分歩いて丸久小山園へ向かいました。到着時には2番目で、9時の開店時には後ろに20組以上が並んでいたといいます。

その後も複数の茶舗を回り、店によっては購入できる缶数に制限があったそうです。ただし投稿者自身は後の返信で、訪問時が秋の連休「シルバーウィーク」だったことも、混雑に影響したのではないかと述べています。

同じスレッドには「8月の午後に行ったらたくさん残っていた」という声もありました。つまり、日本中の抹茶が常に売り切れているわけではありません。それでも主要茶舗の販売制限や価格改定は続いており、抹茶をめぐる供給問題そのものはまだ終わっていません。

なぜ、生産を増やしているのに品薄が続いているのでしょうか。

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「どこにも抹茶がない」わけではない

まず、品薄の程度は銘柄や店、時期によってかなり違います。

2025年5月、カフェ従業員が集まるRedditコミュニティ「r/barista」では、抹茶の仕入れについて正反対のコメントが並んでいました。

米アリゾナ州ツーソンの茶メーカー「Maya Tea Co.」の商品を使っているという参加者は、

うちはMaya Tea Co.から抹茶を仕入れているけど、入手するのに困ったことはないよ。

— u/Herchernando

と書いています。

その一方で、別の店では、

この1か月で、メインで使っていた抹茶ブランドが入ってこなくなった。来月には戻ることを願っているところ。

今は予備のブランドを使っていて、それでなんとかなっている。ここ1年で一気に人気が出たというのには同意するよ。

うちではチャイラテは10年以上出しているけど、抹茶を置き始めたのはまだ2年前なんだ。

— u/firebears04

と報告されています。

2026年9月の宇治のスレッドでも、開店前から長い列ができたという投稿に対し、別の参加者はこう答えていました。

私の場合は違ったよ。8月の午後2時に行ったけど、缶はたくさん残っていた。夏だったからか、単に運がよかったのかもしれないけど。

— u/TheAlmostMD

さらに別の人も、直近の午後3~4時ごろに堀井七茗園へ行った際には「ほとんど全部在庫があった」と書いています。

したがって、「日本では抹茶が買えない」と一括りにするのは正確ではありません。

ただ、人気銘柄だけの一時的な騒ぎとも言い切れません。

主要茶舗も実際に販売制限を続けている

一保堂茶舗は2024年10月、「昨今の抹茶需要の高まりから製造が追いつかず、品薄が続いている」として、店舗とオンラインショップで購入点数の制限を始めました。

丸久小山園も、需要が生産能力を上回ったとして直営店で厳しい販売制限を実施してきました。

元庵オンラインショップの公式案内では、抹茶の注文について「月に1回・最大5点まで」とし、一部商品については1点または2点を上限としています。

少なくとも一部の主要茶舗では、2024年に表面化した供給問題が、その後も販売方法に影響を与え続けています。

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抹茶は、需要が増えたからといってすぐ増産できるわけではない

供給問題を理解するうえで欠かせないのが「碾茶(てんちゃ)」です。

抹茶は普通の煎茶を粉にしたものではありません。農林水産省によると、収穫前の茶園を2~3週間ほど覆って日光を遮り、摘んだ葉を蒸し、揉まずに乾燥させたものが碾茶です。これを茶臼などで細かな粉末にしたものが抹茶になります。

製造方法が煎茶とは違うため、必要な加工設備も異なります。

需要増を受け、生産側もすでに増産へ動いています。農林中金総合研究所によると、2024年の国内の碾茶生産量は5,336トン。5年間で約5割増えました。鹿児島をはじめ、主要産地では碾茶用の加工施設整備も進んでいます。

それでも、急増した需要には追いつきませんでした。

一保堂茶舗は2026年9月、2024年ごろから世界的な抹茶需要が急増した一方、新しく茶畑を作っても収穫まで約5年かかるため、需要に合わせてすぐ生産量を増やすことはできないと説明しています。

工場だけ増やせば翌月から抹茶が大量に出てくる、という商品ではないのです。

海外需要が急増し、増産しても供給が追いつかなかった

需要側の伸びも非常に大きくなっています。

農林水産省によると、2025年の日本の緑茶輸出額は721億円で、前年から98.2%増加しました。これは抹茶単独の輸出量でも消費量でもなく、価格上昇の影響も含む「緑茶全体の輸出額」なので、その点には注意が必要です。

一方で農水省は、増加の背景として「抹茶を含む粉末状茶」の需要拡大を挙げています。

2026年1月に日本貿易振興機構(ジェトロ)が大阪で開いた輸出商談会でも、参加した輸出商社21社のうち8社が抹茶を関心商材として選び、抹茶関連で25件の商談が行われました。

米国でも2025年には、日系の抹茶輸入販売業者がジェトロの取材に対し、既存客への供給も間に合わず、新規客を断っていると説明しています。

生産は増えています。それでも、茶舗や輸入業者の現場では需要に供給が追いついていません。

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人気銘柄への集中と、転売目的と疑われる購入も確認された

一方、すべてを生産量だけで説明することもできません。

Redditでは、「実際にはSNSなどで知られた一部のブランドへ買い手が集中しているのでは」という意見も出ていました。

実際、2026年9月の宇治のスレッドでも、店や訪問日によって「開店前から20組以上」「午後でもほぼ全部あった」と、かなり違う体験が報告されています。

また丸久小山園は2025年7月、抹茶の販売制限を行っている中で、複数人を集めて商品を買おうとするなど「転売目的と疑われる」事例が発生していると公式に発表しました。

供給不足が続くなか、SNSで知られた銘柄への注文の集中に加え、販売制限中にも転売目的と疑われる購入事例が確認されているわけです。

ただし、こうした行動が品薄全体にどの程度影響しているのかを示す数字はありません。現在の供給問題を、転売やまとめ買いだけで説明することはできません。

「最高級の抹茶をラテに使う」問題は少し注意が必要

Redditでは、「ラテなのに高価な抹茶を使う人が増えたこと」を問題視するコメントもありました。

ここでよく登場するのが「ceremonial grade(セレモニアルグレード)」です。

しかし一保堂茶舗は、この言葉について「海外で抹茶を販売するために作られた用語で、日本では使われていない」と説明しています。統一された公的な日本の抹茶等級ではありません。

そのため、「セレモニアルグレードの買い占め」という言葉だけで現在の供給問題を説明するのは避けたほうがよさそうです。

実際には、個々の茶舗が用途や味、品質、茶道での使い方などに応じて複数の銘柄を販売しており、その中で高価格帯の商品までラテ用として購入する人への不満が、愛好家のスレッドでは見られた、と捉えるのが適切でしょう。

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抹茶を増やした結果、今度は煎茶やほうじ茶にも影響が

現在の抹茶ブームで興味深いのは、影響が抹茶だけで終わらなくなったことです。

2021年、日本の茶生産に占める碾茶の割合は4.2%でした。2024年には7.3%まで上昇しています。一方、煎茶は54.0%から49.7%へ低下しました。

茶全体の生産量に余裕がないなかで、需要の強い碾茶へ生産が移っているためです。

農林中金総合研究所によると、2025年8月には、収穫した茶葉を一次加工した「荒茶」のうち、煎茶の価格指数が過去5年平均の3倍を超える水準になりました。

さらに一保堂茶舗は2026年9月、抹茶向けへの転換がさらに進んだ結果、2026年産では玉露・煎茶・番茶類の生産量が大きく落ち込んだと説明しています。一方で抹茶自体も生産量は大幅に伸びたものの、需要が引き続き強く、取引価格は前年を上回りました。

丸久小山園も2026年7月の価格改定について、煎茶から碾茶への転換で玉露・煎茶・ほうじ茶などの原料確保まで難しくなったことを理由の一つに挙げています。

「抹茶を増産すれば解決」という単純な話ではなく、同じ茶産業の中で何を作るかという配分にも影響が出ているのです。

生産は増えている。それでも、すぐ以前の状態には戻らない

では、現在の供給状況はどこまで改善しているのでしょうか。

碾茶の生産量はすでに大きく増え、加工施設への投資も進んでいます。農水省も海外需要を見込み、碾茶の生産拡大を推進しています。

一方、2026年7月の農林中金総合研究所の分析では、日本の茶生産全体が減少するなかで煎茶から碾茶への転換が進んだことで、茶全体の価格上昇や加工業者のコスト増といった別の問題も生じていると指摘されています。

一保堂茶舗も、2026年産の抹茶は大幅に増産されたものの、需要が旺盛なため取引価格は前年を上回ったと説明しています。

現在の品薄は、「SNSで話題になった銘柄に注文が集中したから」だけでも、「日本で抹茶を十分作っていなかったから」だけでも説明できません。

長期的に茶生産全体が縮小してきたところへ、海外を含む抹茶需要が短期間で急増した。生産側は碾茶への転換や設備投資を進めていますが、茶畑や原料、生産設備は一気には増やせません。

増産はすでに始まっていますが、2026年9月現在も、供給と需要のバランスが完全に落ち着いたとはいえない状況が続いています。

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