(最終更新:2026年9月4日)
「なんでメキシコ政府はカルテルを潰せないの?」
そんな疑問がRedditに投稿されました。
Why doesn’t the Mexican government take down the cartels?
by u/5pooky5cary5keleton5 in NoStupidQuestions
スレッドでは、
「政府が買収されているからでは?」
「政治家や警察が脅されているんじゃないか」
といった意見が出る一方、
「メキシコ政府は実際にカルテルと戦ってきた」
という反論も出ています。
話を追っていくと、どうやら単純に「政府が何もしない」という話ではなさそうです。
実際、メキシコでは2000年代から軍や警察を動員した大規模な麻薬対策が行われてきました。
それでもカルテルは消えませんでした。
では、なぜなのか。
「政府がカルテルに買収されている」という意見
Redditでまず出てきたのが、政府と犯罪組織の癒着を疑う声です。
政治家や警察関係者が買収されているのではないか。
あるいは、金を受け取らなければ本人や家族に危害を加えられるのではないか。
メキシコの犯罪組織をめぐっては、「Plata o plomo(銀か鉛)」という言葉も知られています。
金を受け取るか、それとも脅しに屈するか。
そんな状況を表す言葉です。
実際、メキシコでは犯罪組織による政治への介入が問題になってきました。
2024年の総選挙では、Reutersが選挙期間中に37人の候補者が殺害されたと報じています。
もちろん、これらすべてがカルテルによる犯行だったと断定できるわけではありません。
それでも、組織犯罪と政治の距離が決して遠いものではないことをうかがわせる出来事ではあります。
ただ、ここで一つ気になる反論があります。
「政府は本当に何もしていないのか?」
メキシコ政府は実際にカルテルと戦ってきた
メキシコ政府がカルテルを放置してきたわけではありません。
代表的なのが、2006年に始まったフェリペ・カルデロン政権の「麻薬戦争」です。
カルデロン政権は軍や連邦警察を動員し、犯罪組織の幹部を次々と狙いました。
カルテルのトップを逮捕・殺害することで、組織そのものを弱体化させようとしたわけです。
ところが、ここで予想外の問題が起こります。
大きな組織のトップがいなくなると、残った勢力がそのまま消えるとは限りません。
内部で分裂したり、空いた縄張りをめぐって別の組織と争ったりするからです。
Redditにも、
「一つを潰しても、別の二つが出てくる」
という趣旨のコメントがありました。
単なるネット上の印象論とも言い切れません。
カルテルのトップを捕まえたら、組織は消えるのか
Cambridge University Pressの学術誌『Political Science Research and Methods』に掲載されたJane Esberg氏の研究では、2009年から2020年までにメキシコで活動した473の犯罪組織が分析されています。
研究では、犯罪組織のトップを排除する「キングピン戦略」と、その後に小規模な犯罪組織が増えることとの関連が調べられました。
大きな組織の指導者を排除しても、その組織が跡形もなく消えるとは限りません。
内部で勢力が分裂し、新しい組織が生まれる。
さらに、空いた縄張りや利益を狙って別の組織が入り込む。
こうした動きが重なることで、以前より小さな組織が増えていくことがあります。
大きなカルテルを一つ倒すことと、犯罪組織そのものを減らすことは、同じではありません。
ここが、メキシコの麻薬戦争を考えるうえで厄介なところです。
「カルテルは政府より金を持っている?」
Redditでは、カルテルの資金力に注目する声もありました。
犯罪組織が大きな利益を得ている地域では、その資金を使って政治家や警察関係者などへ影響を及ぼす可能性があります。
ただ、これも「メキシコ政府全体がカルテルに支配されている」と考えると話が単純になりすぎます。
実際には、犯罪組織との関係をめぐって問題が指摘される政府関係者がいる一方で、カルテルの摘発を続けている警察官や軍関係者もいます。
政府の中にカルテルと戦う人間がいることと、犯罪組織との癒着が存在することは、両立してしまいます。
アメリカの「需要」も無視できない
別のRedditユーザーは、メキシコだけを見ても問題は分からないと指摘していました。
その背景として挙げられたのが、アメリカにある巨大な違法薬物市場です。
メキシコの犯罪組織が大量の利益を得られるのは、国境の向こう側に大きな市場があるからでもあります。
そのため、
「カルテルを取り締まればいい」
というだけでは終わりません。
需要が残っていれば、そこから利益を得ようとする組織が現れるからです。
とはいえ、カルテルの活動は麻薬だけに限られません。
麻薬だけを取り締まっても終わらない
Redditでは、
「カルテルは麻薬を売るだけの組織ではない」
という指摘もありました。
地域によっては恐喝や密輸などにも活動を広げています。
Esberg氏の研究でも、麻薬以外の利益機会として燃料窃盗が取り上げられています。
つまり、麻薬市場を狙った取り締まりだけでは、犯罪組織が利益を得る経路すべてを断つことにはなりません。
ある収入源が潰されれば、別の収入源を探す。
大きな組織が崩れれば、その一部が別の組織として残る。
カルテルをめぐる問題が長く続いてきた背景には、こうした事情もあります。
現在のメキシコ政府はどうしている?
現在のシェインバウム政権も、犯罪組織への対策を続けています。
政府は、犯罪の原因への対策に加え、国家警備隊の強化、情報・捜査能力の向上、政府機関同士の連携などを治安政策の柱として掲げています。
また、政府が発表する統計では、故意による殺人件数も減少しています。
メキシコ政府によると、1日あたりの故意による殺人件数は、2024年9月の86.9件から2026年7月には42.5件となり、51%減少しました。
ただし、この数字だけでカルテル問題そのものが解決に向かっていると判断することはできません。
メキシコでは、治安当局が各地から報告された犯罪情報をもとに統計を作る一方、INEGIも死亡証明書などを使って別の殺人統計を作っています。
集計方法が違うため、数字は一致しません。
少なくとも政府が発表する治安指標では、改善を示す数字が出ています。
一方で、それが犯罪組織の弱体化をどこまで意味するのかは、また別の問題です。
海外「なぜ潰せないの?」
Redditで始まったのは、
「なぜメキシコ政府はカルテルを潰せないのか?」
という素朴な疑問でした。
そこから出てきた答えは一つではありません。
政治家や警察への買収や脅迫。
アメリカに存在する巨大な違法薬物市場。
麻薬以外にも広がる犯罪組織の収入源。
そして、政府が実際に大規模な取り締まりを行った後にも残った組織の分裂や勢力争い。
カルテルのトップを捕まえることはできても、犯罪組織が活動する土壌まで一緒になくなるわけではありません。
長年続いてきたメキシコの「麻薬戦争」を追っていくと、Redditで出ていた「なぜ潰せないのか」という疑問も、少し違った角度から見えてきますね。
参考情報と翻訳元
- Reddit「Why doesn’t the Mexican government take down the cartels?」 — 翻訳元となったRedditスレッド
- Cambridge University Press「Criminal fragmentation in Mexico」 — メキシコの犯罪組織の分裂とキングピン戦略についての研究
- Reuters「Mexican candidate assassinations hit grim record ahead of Sunday’s election」 — 2024年メキシコ総選挙をめぐる候補者への暴力について
- メキシコ大統領府「La Estrategia Nacional de Seguridad y la justicia funcionan en 22 meses…」 — 現在の治安状況と殺人件数の推移について
- メキシコ治安当局「Las estadísticas vitales de INEGI confirman la disminución del homicidio doloso en 2025」 — SESNSPとINEGIの殺人統計について


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