(最終更新:2026年9月17日)
異世界転生や追放、チート能力、スローライフなど、最近のアニメには似た要素が重なる作品が目につきます。ただし、追放ものやスローライフものが、必ずしも異世界作品というわけではありません。
それでも海外掲示板Redditでは、「なぜ似たような異世界ものが何度も作られるのか」という話題が、何年にもわたって繰り返されていました。
実際には、どんな仕組みが背景にあるのでしょうか。
そもそも「異世界」と「なろう系」は同じもの?
最初に整理しておきたいのが、「異世界もの」と「なろう系」は完全な同義語ではないということです。
小説投稿サイト「小説家になろう」は、「異世界転生」「異世界転移」に明確な基準を設けています。主人公が私たちの暮らす現実世界に相当する場所から異世界へ転生・転移し、物語の主な舞台が異世界になる作品が対象です。
一方、「なろう系」は「小説家になろう」が設定している公式ジャンル名ではありません。
2019年に運営会社を取材したKAI-YOU Premiumの記事では、「なろう系」という呼称について、運営側も「誰かが命名したものではなく、自然発生的につけられた呼称」と説明しています。実際には「小説家になろう」発ではない作品まで「なろう系」と呼ばれることがあります。
この記事ではさらに、投稿サイト発の作品や、そうした作品と近い作風をまとめて説明するとき、便宜上「Web小説系」という言葉も使います。こちらも厳密な公式分類ではありません。
2019年、カドカワは本当に「毎クール1本以上」を掲げていた
今回調べていて特に目を引いたのが、2019年5月に当時のカドカワ株式会社が発表した決算資料です。
そこには『Re:ゼロから始める異世界生活』『この素晴らしい世界に祝福を!』のヒット実績を踏まえ、「毎クールに一作品以上『異世界もの』アニメを放送する方針」を立てたことが明記されています。「毎クール」とは、春・夏・秋・冬といった約3か月ごとのアニメ放送期のことです。
同じページには「出版を含めた総合的な収益を実現」とあり、『盾の勇者の成り上がり』『賢者の孫』についても、北米向けの配信・販売などのライセンス収入に加え、原作やコミカライズの電子書籍が好調だったと説明されています。
さらに同じ決算資料では、プロ作家やUGC、つまりユーザーが生み出すコンテンツなどから年間5000点の新刊を継続的に生み出し、ゲーム化、映像化、グッズ化、海外展開などへつなげる方針も示していました。
小説を漫画やアニメなど複数の媒体へ展開する、いわゆるメディアミックスを会社全体で強化していたわけです。
Redditでも、この2019年の方針は当時から話題になっていました。
主人公がその世界について何も知らないから、視聴者と同じように世界を知っていける。そうすれば、説明を物語の中へ自然に入れやすい。
— u/Hopsalong
知らない世界へ来た人物に現地の人物が説明する形なら、魔法や身分制度、冒険者ギルドといった設定も、登場人物同士の会話として紹介できます。
「小説家になろう」の運営側も2019年のインタビューで、異世界ものについて、主人公がそこで何をするか、どんな特技を使うかと設定を変えることで、多くの作品を生み出しやすいのではないかという見方を示していました。
ただし、これは学術研究によって確定した「異世界作品が増えた原因」ではなく、投稿サイト運営側の見解です。
KADOKAWAの事例だけで、アニメ業界全体は説明できない
2019年の資料からは、少なくともKADOKAWAという大手企業が、ヒットした異世界作品を出版・アニメ・海外ライセンスなどへ広げ、継続的に展開する戦略を明示していたことが分かります。
一方、それだけで「日本のアニメ業界全体が同じ理由で異世界アニメを増やした」とまでは言えません。関わる出版社や制作会社、製作体制は作品によってさまざまで、異世界アニメすべてがKADOKAWA作品というわけでもないからです。
そのため、ここで見えているのは「異世界アニメが増えた唯一の理由」ではなく、大手出版社の一社で実際に採られていた戦略の一例です。
「似ているから嫌」と「似ているから好き」は両立している
今回提示されたRedditスレッドでは、「主人公や世界観が似ている」「ゲームのような能力やランクが何度も出てくる」といった批判がかなり頻繁に出てきました。
ところが、まったく逆の受け止め方もあります。
驚かされるために見ているんじゃない。リラックスするために見ているんだ。お決まりの展開を楽しんでいる。
— u/DStalebagel
別のスレッドでは、
新しいテレビ番組を見るより、好きな番組の新シーズンを見るのと同じだと思う。
馴染みのあるものは落ち着く。
— u/NeonFraction
という説明もありました。
少なくとも今回のスレッドには、「似ていること」を必ずしも欠点と考えない視聴者もいます。
人気Web小説を600作品調べると、「期待」が一つの特徴だった
ここで興味深い研究があります。
2025年に『人工知能学会論文誌』へ掲載された渡邉真氏、深澤佑介氏の研究では、「小説家になろう」に掲載された600作品を分析しています。
グローバルポイント上位300作品を「人気作品」、10万字を超える作品から無作為に選んだ300作品を「一般作品」とし、それぞれ冒頭10万字を対象に、AIを使って「喜び」「悲しみ」「期待」「驚き」「怒り」「恐れ」「嫌悪」「信頼」の8種類の感情を分析しました。
すると人気作品では、物語の序盤で「期待」が人気作品側と結びつく一方、「驚き」や「恐れ」は逆方向に働く傾向がありました。終盤に進んでも「期待」や「信頼」が維持され、「驚き」「恐れ」は低下する傾向が確認されています。研究者らは、Web小説では過度に意外で難解な展開を避け、読者に解決への期待を持たせることが読み進める力につながる可能性を論じています。
これは少し面白い結果です。
Redditで出ていた、
「驚かされたいわけではない」
「馴染みのあるものは落ち着く」
という感覚と、まったく同じことを証明した研究ではありません。しかし、「小説家になろう」の人気作品では、少なくとも文章上の感情の流れに、一般作品とは異なる特徴があることが分かります。
ただし、この研究は異世界作品だけを調べたものではありません。また、読者に「なぜこの作品が好きか」と聞いた研究でもないため、「なろう系が人気なのは予想できるから」とまでは言えません。
それでも、投稿サイトで読者に選ばれる作品が、どんな物語の流れを持っているのかを考える材料にはなりそうです。
ところが2026年、KADOKAWA自身が「勝ちパターンへの依存」を挙げた
ここで時間を7年進めます。
2026年にKADOKAWAが公表した中期経営計画では、国内出版事業の収益性が悪化した要因の一つとして「既存の勝ちパターンへの過度な依存」を挙げ、その具体例に「『なろう・異世界系』など実績のあるジャンルへの偏重」を挙げています。
資料では、その結果として「市場飽和の状態となり収益性が悪化」したこと、さらに企画が類型化し、斬新な企画や新ジャンルへの挑戦が減少したことも記されています。
これはあくまで、KADOKAWAの「国内出版事業における収益性悪化の要因」として示された分析です。「異世界アニメ市場そのものが飽和した」「異世界アニメの人気がなくなった」とまでは言えません。
2019年には異世界アニメを継続的に展開する方針が示され、2026年には国内出版で「なろう・異世界系」など実績のあるジャンルへの偏重が課題として挙げられました。
同じ会社の資料を7年離して見ると、成功した型を積極的に広げたあと、その型への依存自体が課題として認識されるようになった、という変化が見えてきます。
「長いタイトルは、あらすじ欄がないから」は本当?
今回のRedditスレッドでは、「小説家になろうにはあらすじ欄がないので、作者がタイトルをあらすじ代わりにした」という説明も何度か出てきました。
ところが、現在の「小説家になろう」公式ヘルプでは、あらすじは必須項目です。作品設定では10文字以上1000文字以内で入力する仕様になっています。
そのため、「あらすじ欄そのものが存在しない」という説明は、少なくとも現在の「小説家になろう」には当てはまりません。
Web小説では大量の作品の中から読者に選んでもらう必要があるため、タイトルに設定や特徴を詰め込むことが有利だった、という説明は考えられます。ただし、「あらすじ欄がなかったことが長いタイトルの起源だった」と歴史的に断定するには、今回確認できた資料だけでは足りません。
海外コメントをそのまま歴史的事実として採用するのは危ないところでした。
「日本人が現実逃避したいから」だけでは説明できない
異世界作品の話になると、Redditでは「escapism」、つまり現実から少し離れて楽しむという説明も頻繁に出てきます。
ただ、そこから「日本社会がつらいから、日本人は異世界作品を見る」と社会全体の因果関係に広げるのは別の話です。
Redditにも単純な説明への反論がありました。
人はずっと昔から現実逃避を求めてきた。異世界は、その中で最近人気になった新しい味付けにすぎないと思う。
— u/FetchFrosh
今回確認できた資料から比較的はっきり見えるのは、Web小説という大きな投稿環境があり、そこで読者に選ばれた作品から出版、漫画化、アニメ化へ進む道が作られてきたことです。
少なくともKADOKAWAでは、ヒットした異世界作品を出版とアニメの両方で展開する戦略を2019年に明示し、2026年には国内出版で既存の成功パターンへの偏重を課題として挙げていました。
さらに「小説家になろう」の人気作品そのものを分析すると、一般作品とは異なる感情の流れも確認されています。
これだけで「なぜ日本の異世界アニメが多いのか」をすべて説明できるわけではありません。それでも、投稿サイトで作品が選ばれ、出版され、アニメなどへ広がり、成功した型が再び作られるという流れの一端は見えてきますね。
この記事に関連するおすすめ小説
長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』(MF文庫J/KADOKAWA)
今回の記事でも、2019年にKADOKAWAが異世界アニメを積極的に展開する方針を示した際、『この素晴らしい世界に祝福を!』とともにヒット実績として名前が挙げられていた作品です。
現代日本から異世界へやってきた主人公が、その世界を知らない状態から物語へ入っていくため、記事で触れた「主人公と読者・視聴者が一緒に世界を知っていける」という異世界ものの特徴も分かりやすく見ることができます。
「異世界もの」と一括りにされる作品が、実際にはどのように設定を物語へ組み込んでいるのかを読んでみたい人にもおすすめです。
参考情報と翻訳元
- 渡邉真・深澤佑介「Web小説における人気作品群の物語進行に伴う感情変化の定量的解析」『人工知能学会論文誌』40巻5号、2025年 — 「小説家になろう」の人気300作品と一般300作品を比較した研究。
- カドカワ株式会社「2019年3月期 通期決算」 — 2019年当時の異世界アニメ展開方針、北米ライセンス、出版を含めた収益方針を確認。
- KADOKAWA 中期経営計画 2027年3月期~2032年3月期 — 国内出版事業における「なろう・異世界系」偏重、市場飽和、企画類型化について確認。
- 「異世界転生・転移のキーワード設定に関して」小説家になろう — 「異世界転生」「異世界転移」の公式上のキーワード設定基準を確認。
- 「あらすじ」小説家になろうヘルプセンター — 現在、あらすじが必須項目であることを確認。
- KAI-YOU Premium「『小説家になろう』インタビュー Vol.3」 — 「なろう系」という呼称や、異世界転生・転移作品についての運営側の見解を確認。
- Reddit r/anime「Kadokawa has now established a “At Least One Isekai Anime per season” policy following huge success with Re:Zero and Konosuba」— 2019年のKADOKAWA方針を巡る議論。
- Reddit r/Isekai「Does anyone else get tired of how most isekai series follow the same format?」— 定番展開への批判と、それを安心感として楽しむ意見を参照。
- Reddit r/CharacterRant「Why are we still pumping out literally the same isekai over and over again which such an open to the imagination premise?」— 異世界作品の類型化を巡る議論。
- Reddit r/anime「Isekai Release Chart – The amount of Isekai anime released by Year (hours & entries).」— 異世界作品の増加や「現実逃避」を巡る議論。


コメント