(最終更新日:2026年9月16日)
住宅街を歩いていると、電柱から家へ何本もの線が伸び、大通りでは電力や通信のケーブルが何段にも重なっていることがあります。
日本では珍しくない光景ですが、海外掲示板Redditでは、こうした日本の電線を見て「なぜ地下に埋めないのか」という疑問がたびたび投稿されています。

電線が密集した街角の写真には、
電線を地下に埋めない国に住んでいる自分が言うのもなんだけど、本当に地中化した方がいいと思う。
— u/StrawberryEiri
というコメントが寄せられました。
一方で、
地震があれだけ多い国で、本当に地下に埋めるのがいいのかな……。
— u/CrasseMaximum
という疑問も出ています。
日本で電柱や電線が多い理由として、海外でもよく挙げられるのが「地震」です。ところが国の資料まで追ってみると、「地震が多いから地下にできない」という説明では、実態をうまく捉えられませんでした。
そもそも「無電柱化」は、必ずしも電線を地中へ埋めることだけを意味しません。電線を地下へ収容する「地中化」のほか、裏通りや建物の軒下・壁面などを利用して、表通りから電柱をなくす方法もあります。
この記事では、その中でも現在の無電柱化で中心となっている地中化を主に見ていきます。
「電線だらけ」の写真は、実際より密集して見えることも
Redditでは、日本の空が電線で埋め尽くされたように見える写真もたびたび投稿されています。
東京・八王子の電線が大量に重なった写真を探していたRedditユーザーに対し、現地を知る人は、
この写真は望遠で撮って、電線同士が近く見えるようになってる。実際にはもっと長い範囲に分散してるよ。
— u/biwook
と説明していました。
八王子に住む別のユーザーも、
ここがどこか分かるけど、実際は写真みたいには全然見えない(笑)。
— u/kirbypurrs
と答えています。
望遠レンズを使って離れた場所から撮影すると、前後に離れている電柱や電線が圧縮され、実際より密集して見えることがあります。
少なくとも、この八王子の写真については、写っている電線が実際の街で見たときよりも密集して見えていたようです。
もちろん、日本に電柱や、電柱など地上に張られた電線(架空線)が多く残っていること自体は事実です。
では、実際にはどのくらい残っているのでしょうか。
日本の無電柱化率はどのくらい?
国土交通省の2024年度末の資料では、高速道路を除いた道路延長を基準にした無電柱化率は、日本全国で1%、東京都全体で6%、東京23区で9%、大阪市で6%となっています。
かなり低く見える数字です。
ただ、この数字は「道路延長ベース」で計算されています。
同じ国土交通省資料では、電気事業者のケーブル延長を基準にすると、東京23区は48%、大阪市は46%です。
つまり東京23区では、「電柱のない道路がどれくらいあるか」という道路延長ベースでは9%ですが、「電気事業者のケーブルの長さのうち、どれくらいが地下にあるか」というケーブル延長ベースでは48%になります。
何を基準にするかで、数字が大きく変わるわけです。
国土交通省の資料でも、日本の無電柱化は海外の主要都市に比べて遅れていると説明されています。
同省の比較資料では、ロンドン、パリ、香港、シンガポールなどは無電柱化がほぼ完了した都市として紹介されています。
都市ごとに調査年や集計方法が異なるため、「日本は何位」といった単純な順位として比較できる数字ではありませんが、日本に多くの電柱が残っていることは確かです。
では、なぜここまで差ができたのでしょうか。
なぜ日本では電柱が当たり前になったのか
現在のように架空方式が広く定着した大きな背景の一つが、第二次世界大戦後の都市復興です。
国土交通省がまとめた資料では、戦災で大きな被害を受けた都市を復旧する際、「いかに早く、安く復旧するか」が重視され、電柱の上に電線を張る架空方式が基本になったと説明されています。
地下に管路を造って電線を通すよりも、電柱を立てて架空線を張る方が短期間で整備でき、費用も抑えられます。当時は現在ほど都市景観も重視されていませんでした。
こうして戦後復興と都市の拡大の中で、電柱と架空線が日本各地へ広がっていきます。
もちろん、電線の地中化そのものは戦前から行われていました。
ただ、国が全国的な計画に基づいて電線類の地中化を本格化させたのは1986年度です。
そのころには街の多くがすでに出来上がり、道路の地下には水道、下水道、ガスなどの設備が通っていました。
ここが、新しい街で最初から電線を地下へ入れる場合とは大きく違います。日本では、すでにさまざまな設備がある街を使い続けながら、後から無電柱化していかなければなりません。
「地震が多いから地下にできない」は本当?
Redditでは、京都の写真でも筑波山の写真でも、「日本は地震が多いから電線を地下にできない」という説明が繰り返し登場しました。
たしかに、地下設備にも弱点があります。
地盤が大きくずれたり、液状化したりすれば設備が損傷する可能性があります。故障した場所が地上から直接見えないため、損傷箇所の特定や掘り返しに時間がかかる場合もあります。
電線を地下へ移しても、変圧器などの機器を地上に設置する方式があり、大規模な浸水ではそうした機器が水没する可能性もあります。
地中化すれば、どんな災害にも強くなるわけではありません。
では、「地震が多いから地下にできない」という説明はどうでしょうか。
国の資料を見る限り、少なくとも現在の無電柱化政策とは反対です。国土交通省は、防災・強靱化そのものを無電柱化の主要な目的の一つにしています。
実際、1995年の阪神・淡路大震災について、供給に支障が生じた設備の割合を見ると、概ね神戸市内の通信設備では、架空線が2.4%だったのに対して地中線は0.03%でした。
電力についても、震度7地域では架空線が10.3%、地中線が4.7%となっています。
これは、阪神・淡路大震災の特定地域・設備について、供給に支障が生じた割合を整理した数字です。あらゆる地震で地中線が同じような結果になるという意味ではありませんし、災害の種類や地盤条件によって被害の出方も変わります。
地中設備は、いったん被災すると仮復旧に時間や費用がかかる場合があるという別の弱点もあります。
それでも、「地震が多いから電柱の方が安全で、地下にはできない」と単純に説明することはできません。
むしろ電柱が倒れれば道路をふさぎ、消防車や救急車など緊急車両の通行を妨げる可能性があります。
現在、国が無電柱化を進めている理由の一つは、そうした災害時のリスクを減らすためです。
すると別の疑問が出てきます。
防災上の利点もあるのなら、なぜもっと速く進まないのでしょうか。
では、なぜもっと早く地下に埋めないのか
大きな壁になるのが、費用と工事の難しさです。
国土交通省の資料では、既成市街地で一般的な無電柱化を行う場合、道路の片側1kmあたり約5.3億円という試算があります。
そのうち、電線を通す「電線共同溝」と呼ばれる地下設備などに約3.5億円、電線や地上機器などに約1.8億円がかかります。
道路の両側に整備する場合は、道路延長あたりの費用がさらに大きくなります。
これは一定の条件を置いた試算で、実際の金額は道路の幅や既存設備の状況などによって変わります。
そして、道路の下は何もない空間ではありません。
すでに水道、下水道、ガス、通信設備などが通っているため、それらを避けながら新しい電力・通信設備を設置する必要があります。場合によっては、既存の地下設備を先に移設しなければ、新しい工事を始められないこともあります。
もう一つ問題になるのが、変圧器などの地上機器です。
電柱の上に載っていた設備をすべて地下に入れられるとは限らず、歩道などに新しい機器を設置しなければならない場合があります。
ところが、日本には歩道のない狭い道路も多くあります。
そうした場所では、公共用地や私有地に機器を置く場所を確保し、土地所有者などと調整する必要があります。
電柱を抜き、そのまま電線を地面へ埋めれば終わるという工事ではないのです。
従来は完了まで平均7年
費用だけでなく、工事にも時間がかかります。
従来の電線共同溝事業では、まず設計を行って地下にある設備を調べ、その後、水道やガスなど必要な設備を移設します。
そこから電線共同溝を造り、電線を入れ、各建物への引き込みを行い、最後に道路を復旧します。
しかも、道路管理者だけで完結する工事ではありません。
電力会社、通信会社、水道、ガスなど、多くの事業者との調整が必要です。
国土交通省によると、従来方式では事業開始から完了まで平均して7年程度を要していました。
現在は、設計から施工までをまとめて進める方法などを導入し、工期を短縮する取り組みも進められています。
こうして見ていくと、日本の無電柱化が進みにくい背景は、「地震があるから地下にできない」という話とはかなり違って見えてきます。
戦後に大量の架空線が整備され、現在はすでに完成している街を使いながら工事をしています。そこへ高い工事費、地下にある既存設備、地上機器を置く場所の不足、多くの事業者との調整といった問題が重なっています。
「このままなら2700年かかる」?
そんな中、2026年7月には、日本関連ニュースを扱うRedditコミュニティ「r/japannews」で、「現在のペースなら、日本の無電柱化には推定2700年かかる」という内容の記事が共有されました。
コメント欄では、
「このペースなら」という計算自体にあまり意味がないと思う。本気で進めるなら、その時点で今と同じペースじゃなくなるんだから。
— u/Freak_Out_Bazaar
という指摘も出ています。
別のユーザーは、全国の道路すべてに同じような地下設備が必要だと仮定し、現在の進み方をそのまま将来まで延長した「メディア的な計算」ではないかと疑問を呈していました。
少なくとも、「2700年後に日本の無電柱化が完了する」という国の公式予測ではありません。
実際、2026年6月に国土交通省が決定した第3次無電柱化推進計画では、今後5年間で約1000kmの無電柱化を完了し、あわせて約4000kmについて計画を策定する方針が示されています。
また、災害時に重要となる高速道路のインターチェンジと県庁などを結ぶ優先区間については、今後30年間でおおむね無電柱化を完成させる方針です。
ここでいう無電柱化は、すべての区間で必ず電線を地下へ埋めるという意味ではありません。
全国の道路を一律に工事するのではなく、防災、交通安全、景観や観光などの観点から、優先度の高い場所を選んで進めています。
東京では「新しい電柱を増やさない」方向へ
東京都も無電柱化を進めています。
2026年6月には「東京都無電柱化計画」を改定し、首都直下地震などを想定して重点整備エリアを広げました。
さらに東京都では、規制区域内で、住宅の建設を目的とし、新しい道路の整備を伴う一定の宅地開発について、開発区域内への電柱などの新設を原則禁止する条例が2026年10月31日から施行される予定です。
すべての宅地開発が対象になるわけではありませんが、対象となる開発では、新しく造る住宅地に最初から電柱を増やさない仕組みが導入されることになります。
すでに存在する大量の電柱を短期間ですべて撤去するのが難しい一方で、新しく整備する場所では同じ状況を増やさない。
既存の街の無電柱化と、新たな電柱を増やさない取り組みを並行して進めているわけです。
ところが「電線がある方が日本らしい」という人も
行政側から見ると、防災や安全、景観などの理由から減らしていきたい電柱や電線。
ところがRedditを見ていると、「なくしてほしい」という反応ばかりではありません。
茨城県の筑波山を撮った写真には、山の手前を電柱と電線が横切っていました。
すると、
電線がなかったら、この山は文字通りどこにでもある山になっちゃうよ。
— u/Freak_Out_Bazaar
というコメントがありました。
別の人も、
電線が“日本っぽい雰囲気”を出してる。
— u/LemonManDude
と書いています。
日本の電線を紹介した別のスレッドでは、
アニメや漫画の作家が電線をこういうふうに描くのって、実物そのままだったんだな。
— u/iAmMikeJ_92
という反応もありました。
その一方で、
ヨーロッパ人の感覚だと、正直かなりごちゃごちゃして見える。なんで本当にこんなに線があるの?
— u/Apprehensive-Web4995
という人もいます。
さらに別のスレッドでは、こうした見方の違い自体を皮肉るコメントもありました。
日本の電線 😍😍😍🥰🥰♥️♥️
東南アジア/中南米の電線 🤢🤮🤢🤮— u/FewExit7745
京都の写真でも、「日本の電線はそれほど気にならないのに、タイやベトナム、フィリピンでは気になる」という趣旨のコメントに対し、
日本文化への憧れがあるから、許せてしまう部分もあるんじゃないかな。
— u/elhooper
という返答がありました。
もちろん、これは一人のRedditユーザーによる解釈です。
ただ、今回確認したコメントの中には、電線そのものだけではなく、「どこの景色として見るか」によって受け取り方が変わっているのではないか、と指摘する人もいました。
同じ電柱と電線を見ても、景観を邪魔するものと感じる人もいれば、日本の日常風景の一部として魅力を感じる人もいるようです。
「邪魔な電線」と「日本らしい電線」の間で
日本の街に電柱や電線が多い背景を、「地震が多いから地下にできない」と説明するのは正確ではありません。
戦後、都市を早く安く復旧するために架空線が広がり、現在はそのとき出来上がった街を使いながら、少しずつ無電柱化が進められています。
地下にはすでに水道やガスなどが通り、道路が狭ければ変圧器などを置く場所にも困ります。工事費も高く、多くの事業者との調整を含めると完成まで長い時間がかかることもあります。
地中設備にも災害時の弱点はありますが、現在の国や東京都は「地震があるから電柱を残す」のではなく、むしろ防災の観点からも無電柱化を進めています。
その一方、Redditでは電柱や電線を日本の日常を象徴する風景として眺め、わざわざ写真を撮りたくなる人もいました。
行政が電線のない空を目指す一方で、「電線があるから日本らしい」と感じる人もいる。
無電柱化がさらに進んだ将来、今はあまりにも身近で意識することのない電柱や電線も、「昔の日本ではよく見た風景」として振り返られるようになるのかもしれませんね。
この記事に関連するおすすめ書籍
『電柱マニア』
須賀亮行 著/オーム社 編
普段はほとんど意識することのない電柱ですが、よく見ると、そこには電気を家庭まで届けるためのさまざまな設備が載っています。
電柱が日本に登場した歴史から、電気が届く仕組み、柱上設備、電柱の見分け方、無電柱化された地域まで、「電柱そのもの」を掘り下げた一冊です。
2020年刊のオーム社の書籍で、今回の記事を読んで「そもそも電柱には何が付いているのか」「なぜ日本の街ではこれほど身近な存在になったのか」と気になった人にも向いています。
参考情報と翻訳元
国土交通省「道路統計年報2025 無電柱化の推進」
2024年度末の無電柱化率について、日本全国1%、東京都6%、東京23区9%、大阪市6%、電気事業者のケーブル延長ベースで東京23区48%、大阪市46%であることや、海外主要都市との比較条件の確認に使用。
国土交通省「我が国における無電柱化の経緯及び情勢の変化」
戦後復興や急速な近代化の中で、安価かつ短期間で整備できる架空配電・通信網が広がった経緯の確認に使用。
国土交通省「令和3年度 政策レビュー結果(評価書)無電柱化の推進」
阪神・淡路大震災における通信線の架空線2.4%・地中線0.03%、電力線の架空線10.3%・地中線4.7%という被害率や、無電柱化の防災上の効果の確認に使用。
国土交通省「無電柱化推進計画の概要」
一般的な無電柱化のコストとして全体約5.3億円/km、土木工事約3.5億円/kmという試算や、従来の事業期間が平均7年程度とされていたことの確認に使用。
国土交通省「『第3次無電柱化推進計画』を決定」
2026年6月に決定された第3次無電柱化推進計画について、今後5年間で約1000kmの整備完了、約4000kmの計画策定、高速道路ICと県庁などを結ぶ優先区間を今後30年間でおおむね無電柱化する方針の確認に使用。
東京都「『東京都無電柱化計画』の改定について」
2026年6月の東京都無電柱化計画の改定、重点整備エリアの拡大、防災を重視した無電柱化方針の確認に使用。
東京都都市整備局「東京における宅地開発の無電柱化の推進に関する条例に基づく手続等」
規制区域内の対象となる宅地開発で電柱などの新設を原則禁止する制度と、2026年10月31日の条例施行予定日の確認に使用。
Reddit r/UrbanHell「Power lines in Tokyo, Japan」
日本の電線を地下へ移すべきという意見、地震が多い日本で地中化してよいのかという疑問、電線景観に対する評価の違いなどを翻訳、参照。
Reddit r/Tokyo「Highest density of overhead cables in Tokyo?」
八王子で撮影された電線写真について、望遠撮影によって実際より電線が密集して見えるという現地を知るユーザーの説明を翻訳、参照。
Reddit r/japanpics「The challenge of photographing anything in Japan」
筑波山の写真に写り込んだ電線について、「電線がなければどこにでもある山に見える」「日本らしい雰囲気になる」とする反応を翻訳、参照。
Reddit r/japannews「Japan has long lagged other developed economies in undergrounding utility lines…」
「現在のペースなら2700年」という数字に対するRedditユーザーの疑問や、現在の進捗を全国へ単純に延長した計算ではないかという反応を翻訳、参照。
Reddit r/japanpics「Kyoto」
日本の電線は気にならない一方、タイやベトナム、フィリピンなどでは気になるという話に対し、日本文化への憧れが見方に影響しているのではないかと指摘したコメントを翻訳、参照。
Reddit r/Powerlines「Japan Power Lines」
実際の日本の電線を見て、アニメや漫画に描かれる電線が現実の風景そのものだったと驚く反応を翻訳、参照。


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