海外「キッチンまで自分で買うの?」ドイツの賃貸ではなぜ入居者がキッチンを用意するのか?

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「キッチンが付いていない部屋を、どうやって貸せるんだろう?」

ドイツで新しい賃貸住宅を探していた人が、海外掲示板Redditでこんな疑問を投稿しました。

Why are so many apartments rented out without a kitchen and if they do have one already, why is it always sold separately?
by u/Bad_Grill in AskAGerman

物件を探していると、キッチンが最初から付いていない部屋を何度も見かける。付いていたとしても、それは大家のものではなく、前の入居者から別料金で買い取るよう求められることがある。

投稿者からすれば、かなり不思議な仕組みでした。

キッチンは部屋に合わせて作られているのだから、大家が買い取って、そのまま次の入居者へ貸せばいいのではないか。

ところがコメントを読んでいると、そもそも「キッチンは部屋の一部なのか?」という感覚からして違うことが分かってきます。

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「キッチンなし」とは、台所の部屋すらないという意味?

まず少し整理しておきます。

ここでいう「キッチンがない」は、必ずしも料理をするための空間そのものが存在しないという意味ではありません。

ドイツ語でEinbauküche(アインバウキュッヒェ)と呼ばれる、作り付けのキッチン設備があります。戸棚や調理台、シンク、コンロ、オーブンなどを組み合わせて設置するタイプです。

賃貸物件によっては、このEinbaukücheが最初から付いていないため、入居者自身が設備を購入して取り付けることがあります。

たとえばハンブルク市の外国人向け住宅案内でも、家具なしを意味するunmöbliert(ウンメーブリールト)の物件では、キッチン家電や照明器具まで付いていないことがあると説明されています。

ただし、これはドイツ全国のすべての賃貸住宅に当てはまるわけではありません。

キッチン付きの物件もありますし、地域や物件によって事情は違います。実際、Redditでも「自分の地域ではキッチン付きが多い」という反応があり、この習慣にはドイツ国内でもかなり差があるようです。

それでも、「家具なしの物件を借りたら、キッチンまで自分で用意する場合がある」という仕組み自体は実在します。

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ドイツでは、キッチンも「家具」?

スレッドで何度も出てきたのが、「キッチンを何だと思うか」という違いでした。

ある参加者は、こう説明しています。

「ドイツで一般的な賃貸は、空の部屋を借りるという考え方なんだ。空というのは、戸棚もないという意味。

少なくとも以前は、賃貸といえば長期間住むものだった。だから一度入居者がキッチンを設置すると、それが何十年もその家庭で使われることもあった。

でもここ数年は以前より引っ越す人が増えているし、今の作り付けキッチンは部屋に合わせて作られているから、次の家へ簡単に移せない。だから前の入居者から次の入居者へ売られることが多い。

大家がキッチンを設置すれば、その費用は大家が払うことになるし、その分を家賃として払うことになる。それに大家には修理する義務も生じる。大家はたいてい、それを避けたがる。」
— u/Partialsaurolophus

日本では、シンクや調理台まで含めて「住宅設備」と考える感覚が強いので、ここは少し不思議に感じるところです。

一方、スレッドには、

「自分たちの感覚では、キッチンも家具の一つなんだ。ベッドやソファと同じ。あまり頻繁に引っ越さないから、引っ越すときにはキッチンを持っていくか、売る。キッチンを自分で所有していない方が、こちらには変に感じる。結局は何に慣れているかだと思う。」
— u/ShitJustGotRealAgain

というコメントもありました。

「部屋に備え付けられていて当然の設備」なのか、それとも「住む人が自分で選ぶ家具」なのか。

キッチンがない物件の不思議さを追っていくと、まずこの境界線が日本とは少し違うようです。

そもそもドイツは「借りて暮らす人」が多い

では、なぜそんな考え方が成り立つのでしょうか。

一つ背景にあるのが、ドイツの賃貸住宅の多さです。

EUの統計機関Eurostatによると、2024年にドイツでは人口の53%が賃貸住宅に暮らしていました。

EU全体では持ち家に暮らす人が68%を占めていますが、ドイツは加盟国の中で唯一、持ち家より賃貸住宅に暮らす人の方が多い国でした。

さらに、ドイツの住宅賃貸契約は「数年だけ住んで終了」という形を基本にしているわけでもありません。

ドイツ民法典では、住宅の賃貸契約を期間限定にするには、契約終了後に大家自身や家族が住む予定があるなど、定められた理由が必要です。契約時にその理由が書面で示されなければ、期間の定めのない契約として扱われます。

もちろん、だからドイツ人全員が何十年も同じ部屋に住むわけではありません。

ただ、「賃貸だから一時的な住まい」とは限らず、長期間暮らすことのできる制度になっています。

そう考えると、毎日使うキッチンを自分の身長や料理の仕方、好みに合わせて用意したいという発想も、少し理解しやすくなります。

スレッドにも、

「長いこと賃貸暮らしをしてるけど、他人のものはいらない。自分のものがいい。キッチンはそっちで持ってて。自分のがあるから。」
— u/Hankol

という人がいました。

大家がキッチンを付けると、壊れたときも大家の問題になる

ただ、「好きなキッチンを選べる」という理由だけでは、この仕組みをすべて説明できません。

コメント欄で何度も指摘されていたもう一つの理由が、修理です。

「貸しているものは全部、維持管理しなければならない。だからキッチン付きで部屋を貸すなら、そのキッチンも維持管理しなければならない。

大家はそんなことをやりたがらない。シャワーやトイレを維持するだけでも十分面倒なんだ。

だからキッチンがある場合でも、それを『買う』ことになる。そうすれば、もう大家の問題ではなくなるから。」
— u/Klapperatismus

これは単なるReddit上の憶測でもありません。

ドイツ民法典535条では、大家は賃貸物件を契約に適した状態で入居者へ引き渡し、その状態を賃貸期間中維持する義務を負うとされています。

つまり、キッチンが賃貸契約の対象として大家から貸し出されている場合には、そのキッチンも原則として大家側の維持管理の対象になります。

ベルリンの借家人協会も、大家から借りている作り付けキッチンについて、大きな故障では大家側が対応する必要があると説明しています。契約に有効な小修繕条項がある場合など例外はありますが、キッチンを所有して貸すことは、大家にとって単に最初の購入費用だけの問題ではありません。

冷蔵庫が壊れる。

コンロが動かなくなる。

食洗機から水が漏れる。

入居者自身のキッチンなら、その対応は基本的に持ち主である入居者側の問題になります。

大家からすると、「最初からキッチンを所有しない」という選択には管理上の利点があるわけです。

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だから前の入居者から「キッチンを買う」ことになる

すると、別の問題が生まれます。

自分で数千ユーロかけて設置したキッチンを、そのまま置いて引っ越したくなったらどうするのか。

ドイツ民法典539条では、入居者が賃貸物件に取り付けた設備を、退去時に取り外す権利が認められています。

つまり、自分で取り付けたキッチンなら、原則として退去時に取り外して持っていくことができます。

実際にスレッドには、引っ越すたびにキッチンを分解し、次の部屋に合わせて組み直してきたという人もいました。

しかし作り付けキッチンは、部屋に合わせて設計されていることがあります。

次の家にそのまま収まるとは限りません。

そこで出てくるのが、次の入居者へ売る方法です。

ドイツ語では、前の入居者が家具や設備を次の入居者へ有料で引き継ぐことをAblöseと呼ぶことがあります。

ドイツの住宅仲介に関する法律にも、賃貸契約の成立に関連して、前の入居者や大家から家具・設備を購入する契約についての規定があります。

つまり、前の入居者が自分のキッチンを次の入居者へ売ること自体は、特別おかしな取引ではありません。

ただし、法律では、その代金が設備の価値と著しく釣り合わない場合、その部分は無効になると定められています。

ベルリンの借家人協会では、要求額が中古設備の現在価値を50%以上上回る場合、その超過部分は認められないと説明しています。

「買う義務はない。でも買わないと部屋を取れない?」

ここで投稿者が感じていた、もう一つの違和感につながります。

前の入居者からキッチンを買うことは、法律上すべての新入居者に課された義務ではありません。

それなら「いらない」と言えば済むようにも思えます。

ところがスレッドでは、現実の住宅探しではそれほど単純ではないという話も出ていました。

ある参加者は、亡くなった義父の部屋の次の入居者を探したとき、大家との間で「キッチンを買う意思のある人」を次の入居者として選ぶことになり、実際に複数の希望者の中から選べたと話しています。

別のコメントでも、「キッチンを買いたくないなら前の入居者が撤去することになるが、その後は自分で新しいキッチンを用意しなければならない」と説明されています。

法律上「買わなければならない」のと、住宅市場の競争の中で「買わないと選ばれにくいと感じる」のは別の話です。

とくに希望者の多い地域では、この二つが入居希望者から見るとほとんど同じように感じられる場合もあるようです。

投稿者が「なぜ次の入居者がお金を払わなければならないのか」と納得できなかったのも、この仕組みが背景にあります。

もちろん、「キッチン付きの方がいい」という人もいる

ここまで読むと、ドイツでは誰もが自分のキッチンを持ちたがっているようにも見えます。

しかしコメント欄は、そこまできれいにはまとまりませんでした。

「申し訳ないけど、賃貸住宅なのにキッチンを自分で買って、設計して、お金まで払わなければならないなんて、必要以上に高くて面倒だと思う。

自分なら、すでにキッチンがある部屋を借りて、その追加の5000~1万ユーロを払わずに済む方がいい。」
— u/filisterr

これに対して、「その費用は結局、家賃に含まれて払うことになる」という返信もありました。

別の人は、大家所有のキッチンが付いた住宅に住んだものの、調理台が狭く、冷蔵庫やコンロにも不満があり、「もう大家のキッチンは嫌だ」と話しています。

反対に、「自分で高いキッチンを買う手間に見合うとは思えなかった」という人もいます。

つまり、この習慣はドイツ国内でも意見が分かれています。

「好きなものを自分で選びたい」という人にとっては合理的でも、数年後に引っ越すかもしれない人や、初期費用を抑えたい人にとっては大きな負担になります。

投稿者自身も最後には、作り付けキッチンのある物件を見つけたと報告し、「時代は変わっている」と書いていました。

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「賃貸なら何が付いていて当然か」は、国によって違う

最初は、「どうしてキッチンすら付いていない部屋を貸すのか」という単純な疑問でした。

しかしコメントを追ってみると、理由は一つではありません。

ドイツには賃貸住宅で暮らす人が多く、住宅賃貸契約も長期間住むことのできる仕組みになっています。そこに、キッチンを自分好みに選ぶ感覚や、大家が所有すれば維持管理の対象になるという事情が重なっています。

そして退去するときには、自分で持っていくか、次の入居者へ売る。

こうして見ると、ドイツの一部で見られる「キッチンのない賃貸」は、単に大家が設備を省いているという話だけではなさそうです。

日本では、賃貸住宅を借りればキッチンや洗面台が付いていることをほとんど意識しません。

でも国が変われば、「どこまでが建物で、どこからが入居者の持ち物なのか」という境界そのものが違う。

スレッドには、

「家具なしなんだから、家具なしだよ。何が付いてると思ってたの?😬」
— u/BSBBI

という一言もありました。

キッチンを住宅設備だと思う側と、家具だと思う側。

お互いから見ると、むしろ相手の方が不思議なのかもしれませんね。

(最終更新日:2026年9月10日)

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今回の記事では、ドイツの賃貸住宅でキッチンを入居者自身が用意することがある背景を追いました。キッチンの有無そのものを解説した本ではありませんが、「住宅をどのように使い、自分たちの暮らしに合わせて整えていくのか」というドイツの住文化を、実際の住宅から見ることができます。

キッチンだけでなく、今回の記事をきっかけにドイツの住まいそのものに興味を持った方にもおすすめです。

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