なぜ青いペンはこんなに定番? コピー機より前から使われていた青インクの歴史

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(最終更新日:2026年9月25日)

ボールペンの定番色といえば、黒と青。日本では黒を使う機会が多いですが、海外の掲示板を見ていると、学校や仕事で青を使ってきたという体験談が各地から出てきます。

海外掲示板Redditでも、「どうして青インクがこれほど一般的になったのか」という疑問が何度も投稿されていました。そこでよく挙がるのが、「白黒コピーと原本を見分けるため」という説明です。

ところがインクの歴史をたどると、少なくとも英米の資料では、オフィス用コピー機が登場するより100年ほど前から、青が普通の筆記に使われ始めていました。

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そもそも「世界中で青が主流」とは限らない

まず気をつけたいのは、「海外ではみんな青いペンを使う」とまでは言えないことです。

2026年、素朴な疑問を投稿するRedditコミュニティ「r/stupidquestions」に、「なぜほとんどのペンは青なの?」という質問が投稿されました。ところがコメント欄では、そもそもの前提から意見が割れています。

本当に? 自分が普段見かけるボールペンやオフィス用のペンは、ほとんど黒インクだけど。

— u/axolotl_is_angry(オーストラリア)

これに対して、別の参加者はまったく逆の経験を語っています。

面白い。自分はチェコに住んでるけど、黒インクのペンなんて見たことすらない気がする。

— u/SerBenjicotBlackwood(チェコ在住)

一人目は後の返信でオーストラリアだと答え、二人目はチェコ在住だと明記しています。もちろん、こうしたReddit上の体験談だけで国ごとの使用率は判断できません。

公的な書類を見ても、色の決まりは一様ではありません。

たとえば、米国の市民権・移民業務を扱う政府機関USCIS(米国市民権・移民局)が2025年8月に公開した書類の説明では、手書きの場合は黒インクを使うよう指定されています。つまり、「公的な書類だから青」という世界共通のルールがあるわけでもありません。

今回の問いは、「なぜ世界中で青が一番多いのか」ではなく、なぜ数ある色の中で青が黒と並ぶ定番の筆記色になったのか、と考えた方がよさそうです。

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「コピー対策だから」だけでは、なぜ青なのか説明できない

Redditでは、青インクについてこんな説明が何度も登場します。

契約書などに青で署名しておけば、黒一色になったコピーと原本を見分けやすい、というものです。

実際、万年筆愛好家が集まるr/fountainpensでは、工学分野での経験としてこんなコメントがありました。

特に工学分野では、原図には青で書き込む。白黒でコピーすると青い部分も黒く写るから、コピー自体は問題なく読める一方で、どれが原本なのかはいつでも分かる。

— u/jellisbellis

このような使い方が実際にあったことを示す公的資料もあります。

米ノースカロライナ州選挙管理委員会の2017~2018年版の選挙資金マニュアルでは、原本の署名である「wet signature(実際にペンで書いた署名)」が必要な書類について、コピーを原本と取り違えないよう青インクを推奨していました。

ただし、これは当時の資料です。現在は、2024年第3四半期の報告から、電子提出者について証明書ベースのデジタル署名も受け付けています。

そして、「原本とコピーを見分ける」という説明だけでは、一つ疑問が残ります。

同じスレッドでは、こんなツッコミが入っていました。

緑は? 紫は? ピンクは? その答えで筋が通ると思う? また「なぜ黒じゃないのか」には答えてるけど、「なぜ青なのか」には全然答えてないよ。

— u/witty_phoenix

たしかに、コピーとの区別だけが目的なら、理屈の上では黒以外の色にも候補があります。

さらに、少なくとも英米の資料では、青インクはオフィス用コピー機よりずっと前から普通の筆記に使われ始めていました。

私のところでは、コピー機が登場するずっと前から青が主流だった。会社でも学校でも、主に青で書いていた。

だから、理由はもっと昔にあるんだと思う。

— u/barnfive

実際に歴史資料を調べてみると、この指摘はかなり重要でした。

もともとの定番は「黒」だった

青よりもずっと長い歴史を持つ定番色は黒です。

米国議会図書館によると、20世紀以前の西洋世界では「鉄没食子インク(iron gall ink)」が最も一般的な筆記用インクでした。

オークなどにできる虫こぶ「没食子」から得られる植物タンニンと鉄塩などを混ぜて作るインクで、中世以降、記録や手紙などに長く使われています。

つまり、青が大昔から黒と肩を並べていたわけではありません。

変化がはっきり見えてくるのは19世紀です。

1842年にイギリスで掲載された「Stephens’ Writing Fluid」の広告を見ると、「書いた後に黒へ変化する青い筆記液」だけでなく、「深い青色のまま変わらない筆記液」も商品として販売されていました。同じ広告には黒や赤のインクも並んでいます。

さらに、より直接的な記述があるのが、1860年にニューヨークで出版された『The History of Ink』です。

この本では、黒以外のインクはかつて主に装飾などに使われていた一方、青インクについては「ここ10年以上、多くの人に普通の筆記用として好まれている」と説明されています。

つまり遅くとも19世紀半ばには、少なくとも英米の資料上で、青が「特別な色」から日常的に文字を書く色へ入り始めていたことが確認できます。

歴史について詳しい回答を集めるRedditコミュニティ「r/AskHistorians」の資料付き回答でも、1839年ごろ以降、青のまま残るインクで書かれた手紙が定期的に見られるようになった経緯が整理されています。ただし回答者自身も、青が選ばれた理由を「確実には分からない」としています。

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コピー機は「青を生んだ」のではなく、青に別の使い道を加えた

一方、オフィス用コピー機の時代が本格的に始まるのは、それよりずっと後です。

Xerox(ゼロックス)の公式資料によると、普通紙へボタン操作で素早くコピーできるXerox 914が登場したのは1959年でした。同社は914を、オフィスで手軽にコピーできるようにした機種として紹介しています。

この時点で、少なくとも英米の資料では、青が100年近く前から普通の筆記に使われ始めていたことになります。

そのため、「コピー機があったから青インクが一般化した」と考えると、時系列が合いません。

一方、すでに使われていた青には、白黒コピーの時代に別の実用性が生まれました。

原本では署名や書き込みが青く見え、白黒コピーではその色の違いが失われます。また、黒で印刷された文章の中でも青い手書き部分なら見つけやすくなります。

こうした実務上の理由から、署名などに青を推奨・指定する例も生まれました。ノースカロライナ州の2017~2018年版マニュアルは、その具体例の一つです。

「コピー対策」は青が最初に選ばれた理由というより、すでに存在していた青インクに、後から加わった用途の一つと考えた方が時系列には合います。

学校では「青で書く」が習慣になった地域も

もう一つ面白いのが、学校です。

r/fountainpensでは、ドイツの学校用インクについてこんな話が出ていました。

そう。ドイツの学校で使うインク、Pelikan 4001の青もそれに当てはまる。一般に「洗える」タイプの青インクは、Tintenkiller(インク消し)で消せる。服にこぼしたなら洗濯機でもね……。

— u/ladidodida

Pelikan(ペリカン)はドイツの老舗文具メーカーです。

同社の現在の「4001 Royal Blue」も、水で洗うことができ、専用のインク消しで消せることを特徴として明記しています。さらにPelikanの社史によると、1960年には筆記指導の教師と万年筆の設計者が協力して児童向け万年筆「Pelikano」を開発し、1972年にはロイヤルブルー用のインク消し「Tintentiger」を発売しました。

Pelikanでは、1960年に児童向け万年筆「Pelikano」が登場し、1972年にはロイヤルブルーを消せるインク消し「Tintentiger」も発売されました。

別の国では、万年筆ではなく青いボールペンが学校の標準になっていたという経験談もありました。

ラトビアでは、学校で万年筆を使う人はいない。基礎教育の1年生から9年生まで、ずっと青いボールペンを使うことになってる。まだアルファベットを完全に身につけていない1年生だけが、鉛筆で書くことを許されている。

ここでは万年筆は時代遅れか、お金持ちが財力を見せるために使うものだと思っている人が多いと思う(買える万年筆の種類も……ほとんどない)。Platinum Preppyみたいな安価な万年筆は知られていない。

— u/daeiribu

原文では「primary school (grades 1 to 9)」と表現されていますが、ラトビア教育科学省によると、同国では1~9年生が9年間の「基礎教育」に当たります。

このコメントは一個人の経験ですが、青インクの習慣が必ずしも万年筆そのものとセットではないことが分かる例です。

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モンゴルでは「ソ連時代の名残では」という声も

モンゴルについて尋ねたスレッドでは、米国出身の投稿者が、モンゴル人のルームメイトが青いボールペンばかり使うことに気づき、「学校でそう教わった」と聞いたことから疑問を投げかけていました。

コメント欄では、ソ連時代の学校文化との関係を挙げる人が複数います。

たぶん、ソ連時代から残った文化や規律の一つだと思う。小学校ではこういうルールが信じられないくらい厳しくて、生徒は青インクのペンだけを使い、先生は間違いを赤で直さなければならなかった……みたいな感じ。

今はかなり緩くなっていて、ペンの色で生徒を罰することはないけど、それでも青いペンを使うよう勧めている。

— u/TsekoD

ただし、今回確認できた範囲では、「モンゴルの青インク指定がソ連時代に始まった」と裏付ける教育当局などの資料までは見つかりませんでした。

そのため、これは現地スレッドで語られている一つの説明として見るのが適切でしょう。

一方、生徒は青、教師の訂正は赤という使い分けや、学校生活を通じて青が「普通に書く色」として身につくという体験談は、モンゴル以外のスレッドでも見られます。

では、なぜ青だったのか

ここまで調べても、「ある一つの理由によって青が選ばれ、世界中へ広がった」という答えは見つかりませんでした。

資料から確認できる流れを時系列で並べると、まず西洋では、長いあいだ黒系の鉄没食子インクが筆記の中心でした。

19世紀半ばになると、少なくとも英米の資料では青い筆記液が普通の筆記にも使われ始めます。20世紀後半には、青い署名で原本と白黒コピーを見分けやすくする実務例も確認できます。地域によっては、学校で青を使ってきたという体験談があり、Pelikanでは児童向け万年筆やRoyal Blue用のインク消しも展開されてきました。

つまり青は、「コピーのために選ばれた色」というより、コピー機が登場する前から普通の筆記色として使われていました。その後、原本の識別という実務上の用途が加わり、地域によっては学校で青を使う習慣も見られるようになります。

なぜ数ある色の中から最初に青がここまで広まったのかについては、今回確認した史料だけで一つの原因に絞ることはできません。

ちなみにRedditでは、長い議論の末にこんな説も出ていました。

ペン業界の陰謀だよ。

— u/Worth_Cobbler_4140

こちらは残念ながら、今回の調査では裏付けが取れませんでした🙇‍♂️

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