駅前やコンビニの近くで、ときどき見かける緑色の公衆電話。
スマートフォンが当たり前になり、公衆電話に触れる機会がほとんどない子どもも少なくありません。NTT東日本が2017年に行った調査では、小学生の子どもを持つ保護者400人の回答で、「公衆電話を知らない」「使ったことがない」を合わせると84.3%に上りました。
ところが海外掲示板Redditでは、日本で今も使われている公衆電話の写真を見て、「まだ残っているのか」と驚く人たちがいました。
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実際に日本を訪れ、使ってみた人もいたようです。
去年、これを使う機会があった。ちょっとした楽しみで数ドル払って国際電話をかけてみたよ。
操作部分は想像していたほどカチカチ、ガチャガチャしていなかったけど、音声はまるで海の向こうから聞こえてくるようだった。まあ、国際電話なんだからそれも合ってるのかもね。
—u/bushnrvn
懐かしい機械として眺めるだけなら、それで話は終わります。
Public phone booths are still everywhere in Japan in 2024. Have you used them?
by u/razorbeamz in japanlife
ただ、似たような話題の別のスレッドまで追っていくと、日本の公衆電話は「昔のものがそのまま残っている」というだけではなさそうでした。
公衆電話は、実際には大幅に減っている
最初に確認しておきたいのは、日本の公衆電話が昔のまま大量に残されているわけではないことです。
NTTの資料によると、1985年度末には全国に90万9,570台の公衆電話がありました。
一方、2026年3月末時点では、NTT東日本が約4万1,000台、NTT西日本が約4万2,000台。合わせて約8万3,000台です。
40年ほどの間に、1割以下まで減ったことになります。
それでも、Redditでは自分の住む地域との違いに驚く声がありました。
数が減っているとしても、まだ残っているなら驚きだよ! 自分の住んでいるところでは、公衆電話なんてもう何年も見ていない。(まあ、必要になることもないと思うけど)
—u/arojilla
日本では、外出先で最低限の通信手段を確保するため、「第一種公衆電話」と呼ばれる公衆電話が一定数設置されています。
2022年から、この第一種公衆電話についても、設置基準が見直されています。
従来は市街地でおおむね500メートル四方に1台、それ以外ではおおむね1キロ四方に1台でしたが、現在は市街地でおおむね1キロ四方、それ以外ではおおむね2キロ四方に1台が基準です。NTT東日本では、2022年3月時点の5万7,983台から、毎年3,000~5,000台程度を減らす見込みとしています。
日本の公衆電話は残されてはいますが、実際にはかなりの数が撤去されているようですね。
ただ、それでも一定数は残されています。
では、それは一体なぜなのでしょうか?
なぜゼロにはしないのか
NTT東日本は、公衆電話について「社会生活上の安全」と「戸外における最低限の通信手段」を確保しながら、利用の少ないものは減らしていく方針を示しています。
Redditでは、そこからさらに一歩進んで「災害」が理由として挙げられていました。
ある投稿者は、大きな地震の際の経験をこう振り返っています。
使ったよ。残っていてくれて本当にありがたいと思ってる。
ここで大きな地震があったとき、自分の携帯電話も、おそらくほかの多くの人の携帯もその日は使えなくなって、家族が無事かどうか確認するには公衆電話を使うしかなかった。
まず公衆電話を探さなきゃならなかったけど、すごく不安だったから、あってくれて本当によかったよ。
その日はだんだん列ができて、たくさんの人がその電話を使っていた。携帯電話のシステムが落ちることも、まれだけどあるし、バッテリーが切れることもある。今でも公衆電話を残してくれていることに感謝してる。
—u/MurasakiGirl
この体験談とつながる記録は、NTT側にも残っています。
2011年3月11日の東日本大震災では、NTT東日本がその日のうちに東日本エリア17都道県の既存公衆電話を無料化しました。3月17日時点では、避難所など274か所に1,204台の無料の特設公衆電話も設置されています。
2018年の北海道胆振東部地震でも、北海道全域の約5,800台が一時無料化されました。さらに2026年7月の熊本地震では、熊本県の一部地域で公衆電話が無料で利用できる措置が取られています。
ただ、公衆電話が残されているのは、「災害時にも電話できるから」というだけではないようです。
もう一つ、災害時ならではの仕組みがあります。
災害時には「優先電話」として扱われる
大きな地震が起きると、被災地へ安否確認の電話が一斉に集中することがあります。
こうした電話網の混雑は「ふくそう(輻輳)」と呼ばれます。
電話が一斉に集中すると、電話網そのものが処理しきれなくなるおそれがあるため、NTTは一般の電話からの通話を一時的に制限することがあります。
そのとき、公衆電話などは「優先電話」として扱われ、一般の電話よりも通話が確保されやすい仕組みになっています。
NTT東日本も、「災害時は、公衆電話などの優先電話の方がつながりやすい」と説明しています。
ここで、Redditにあったコメントをもう一度見てみます。
数は減っているけど、なくなることはない。大規模な自然災害で携帯ネットワークが混雑したときの重要なバックアップシステムだから。
そのため、日本では積極的に撤去していない。3.11の地震のあとの写真を見ると、日本で固定回線の電話がどれだけ重要だったか分かるよ。携帯電話網が使えなくなる中、大勢の人が家族や大切な人に連絡しようと長い列を作っていた。
—u/SouthwestBLT
ただ、このコメントにある「積極的に撤去していない」という部分は、今の状況とは少し違いそうです。
先ほど見たとおり、公衆電話そのものは計画的に減らされています。
それでも最低限の台数を残している背景には、普段の利用だけでは測れない役割があるわけですね。
とはいえ、公衆電話も災害に無敵ではない
ここまで読むと、「それなら公衆電話は災害時でも必ず使えるのか!」と思うかもしれません。
もちろん、そうではありません。
NTT西日本の案内では、緑色のアナログ公衆電話は停電時でも硬貨による通話ができますが、テレホンカードは利用できません。
デジタル公衆電話でも停電時の硬貨発信は可能ですが、グレーのデジタル公衆電話は内蔵バッテリーで動くため、バッテリーが切れると利用できなくなります。
また、公衆電話につながる通信設備そのものが被災すれば、使えない場合もあります。
実際、2018年の北海道胆振東部地震でNTT東日本が約5,800台を無料化した際にも、「一部、通信障害により利用できない公衆電話がある」と案内されていました。2026年の熊本地震でも、災害の影響で利用できない公衆電話があると明記されています。
どうやら、公衆電話は「どんな災害でも必ず使える電話」ではないようです。
携帯電話とは別の連絡手段が残り、電話網が混雑した際には優先電話として扱われる。
ただし、当然ながら設備まで壊れてしまえば使えないこともあります。
直接電話がつながりにくいときのために、災害用伝言ダイヤル「171」という仕組みもあります。
171は、大きな災害で被災地への電話が集中し、つながりにくくなった際に、直接通話する代わりに音声メッセージを録音・再生して安否を伝えられるサービスです。公衆電話だけでなく、固定電話や携帯電話などからも利用できます。
災害がなくても「たまに必要になる」
2つ目のRedditスレッドを読んでいると、災害とは関係のない場面でも公衆電話を使った人たちがいました。
こんな経験をした人がいます。
電車で携帯電話をなくしたとき。取り戻すために、駅の事務所へ連絡するのに使った。
—u/K4k4shi(関東・東京都)
もっと最近の例もあります。
文字どおり今日使ったよ。うっかり携帯電話を家に忘れたから。
—u/back_surgery
山間部で、携帯電話の電波そのものが届かないという話もありました。
田舎の家から町へ下りるときに通る山道に、数キロにわたって携帯電話が圏外になる区間があって、その両端と途中に1台ずつ公衆電話がある。
使ったことはないけど、そこにあってくれてよかったと思う。紀伊でバックパッキングをしていたときにひどく体調を崩して、公衆電話を使わなきゃならなかったこともある。同じように、深い谷で電波が入らなかったんだ。
—u/under_the_lime_tree(中部・愛知県)
公衆電話は、普段の生活ではほとんど必要なくても、携帯電話をなくした、忘れた、壊れた、圏外になった、といった瞬間に突然役割を取り戻します。
子どもに使い方を教えている家庭もありました。
7歳の子どもには、必要になったときのために使い方を教えたよ。
いつも10円玉を何枚かと、自宅と私たちの電話番号を書いたカードをバッグに入れて持たせてる。実際、本人にとっては使うのも楽しいみたい。
— u/izayoi
NTT東日本も、子どもが家族への連絡や110番・119番への通報に公衆電話を使えるよう、使い方を学ぶためのページを用意しています。
こうして見ていくと、公衆電話は「日常的に使う電話」から、普段は出番がなくても、ほかの連絡手段が使えなくなったときに残っているものへと役割を変えてきたようです。
街の公衆電話とは別に、避難所にも電話が準備されている
調べているうちに、もう一つ別の仕組みが見つかりました。
街中に設置されている緑色の公衆電話とは別に、避難所などには「災害時用公衆電話」が準備されているそうです。
これは、災害時に避難所などで早く連絡手段を確保するためのもので、あらかじめ回線を用意しておき、避難所が開設されると、施設管理者が電話機を接続して使えるようにします。
災害のない通常時には利用することはできません。
NTT東日本では2025年9月末時点で2万5,011か所・5万1,056台、NTT西日本では2026年3月末時点で2万1,644か所・3万8,271台が事前に配備されているようです。
街角の公衆電話をすべて残すのではなく、利用の少ないものは減らす。
その一方で、外出先でほかに連絡手段がない場合に使える公衆電話は一定数残し、災害時には避難所に別の電話も用意する。
「古い電話を捨てずに残している」というより、使われ方が変化する中で、必要な電話を残す場所と方法も変わってきた、と見るほうが実態に近そうです。
1982年から続く姿も、少しずつ消えていく
ちなみに、日本の公衆電話の歴史そのものは、緑の電話よりずっと古いものです。
日本で公衆電話が電話局の外へ出たのは1900年です。まず上野駅と新橋駅の構内に設置され、同年10月には京橋のたもとに屋外用の公衆電話ボックスも登場しました。当時は「自働電話」と呼ばれていました。
現在の緑色の電話につながるカード式公衆電話は1982年に登場しています。
テレホンカードを使えるようになったことで、小銭がなくても電話をかけられ、長距離通話の途中で何度も硬貨を追加する必要もなくなりました。
1990年には、ISDN回線を使ったデジタル公衆電話も登場。電話機にパソコンなどを接続し、データ通信や画像通信まで行えるものでした。
最初のRedditスレッドでは、こうした公衆電話そのものを懐かしむ声も目立ちました。
日本にまだ公衆電話があるのも、それに電話ボックスまで残っているのも、かなりいいね。
電話ボックスって、ちょっとマンデラ効果みたいに感じる。子どものころにはあんなに当たり前にあったのに、高校生になるころには完全になくなっていたから。
—u/stricklybiznizz
かつて90万台以上あった公衆電話は、2026年3月末には約8万3,000台まで減りました。
この先も、目にする機会は減っていくのでしょう。
それでも、スマートフォンをうっかり家に忘れた日、圏外の山道、携帯回線の障害、そして災害で電話が一斉に集中したときには、普段ほとんど意識しない公衆電話が急に意味を持つことがあります。
昔の通信手段でありながら、完全に「過去のもの」にはなっていない。
日本の緑色の電話が今も残っている理由は、そのあたりにありそうです。
この記事に関連するおすすめ書籍
『大地震・津波・集中豪雨が起こったそのときに NG行動がわかる防災事典』
タイチョー 著
元レスキュー隊員で防災アドバイザーの著者が、地震や津波、集中豪雨などが起きたときに取るべき行動を、写真やイラストを交えて紹介した一冊です。
災害時の情報収集や連絡についても取り上げており、大規模災害時に公衆電話を活用する方法も紹介されています。今回の記事で触れた「普段はほとんど使わない公衆電話が、なぜ災害時には意味を持つのか」から、実際の防災へもう一歩進んで知りたい方に。
参考情報と翻訳元
- Reddit「Japan’s iconic green payphones, 1982 – present (numbers rapidly dwindling)」 — 日本の緑色の公衆電話を見た海外の反応。ユーザー提供資料。
- Reddit「Public phone booths are still everywhere in Japan in 2024. Have you used them?」 — 日本在住者らによる公衆電話の利用経験。ユーザー提供資料。
- NTT東日本「保護者のみなさまへ/はじめての公衆電話キッズページ」 — 2017年調査と、公衆電話の使い方を子ども向けに案内していることを確認。
- NTT東日本「公衆電話施設数の推移」 — 1985年度末の公衆電話90万9,570台を確認。
- NTT東日本「2025年度期末サービス概況等」 — 2026年3月末の公衆電話約4万1,000台を確認。
- NTT西日本「サービス概況 2026年3月末現在」 — 2026年3月末の公衆電話約4万2,000台を確認。
- NTT東日本「第一種公衆電話機の設置の状況」 — 現在の設置基準と、毎年3,000~5,000台程度の削減見込みを確認。
- NTT東日本「2026年度事業計画の認可申請について」 — 公衆電話について、最低限の通信手段を確保しながら低利用設備を効率化する方針を確認。
- NTT東日本「災害時のふくそう制御のしくみ」 — 公衆電話などが優先電話として扱われる仕組みを確認。
- NTT東日本「東北地方太平洋沖地震による通信サービス等への影響について(第5報)」 — 2011年3月11日の東日本17都道県での公衆電話無料化を確認。
- NTT東日本「東北地方太平洋沖地震による通信サービス等への影響について(第18報)」 — 3月17日時点の特設公衆電話274か所・1,204台を確認。
- NTT東日本「北海道胆振東部地震による通信サービス等への影響について」 — 約5,800台の無料化と、通信障害等で利用できない場合があることを確認。
- NTT西日本「令和8年熊本地震への対応につきまして」 — 2026年7月の熊本県の一部地域での公衆電話無料化と、一部が災害の影響で利用できないことを確認。
- NTT西日本「公衆電話の種類と利用方法について」 — 停電時の硬貨・テレホンカード利用、グレーのデジタル公衆電話の内蔵バッテリーについて確認。
- NTT東日本「災害用伝言ダイヤル(171)概要とご提供のしくみ」 — 電話がつながりにくい際に音声伝言を録音・再生する171の仕組みを確認。
- NTT東日本「災害時用公衆電話(特設公衆電話)設置場所」 — 2025年9月末の2万5,011か所・5万1,056台を確認。
- NTT西日本「災害時用公衆電話 概要」 — 2026年3月末の2万1,644か所・3万8,271台を確認。
- NTT東日本「公衆電話機のうつりかわり(1890~1924年)」 — 1900年の公衆電話について確認。
- NTT東日本「公衆電話機のうつりかわり(1982~1997年)」 — 1982年のカード式、1990年のデジタル公衆電話について確認。
- KADOKAWA『大地震・津波・集中豪雨が起こったそのときに NG行動がわかる防災事典』 — 著者・発売日・書誌情報と、災害時の情報収集や連絡を扱う内容を確認。


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