(最終更新日:2026年9月25日)
2025年9月27日、中国本土で初となる「ちいかわ」の常設公式旗艦店が上海にオープンしました。開店直後は予約枠がすべて埋まり、中国の動画配信サービス「Bilibili(ビリビリ)」では、アニメ短編の再生回数が1億回に迫るほどの人気になっていました。
それから約1年。旗艦店は杭州、南京、海南島の三亜、広州へと広がり、2026年9月25日には深圳店も開業予定です。上海では9月12日から、中国本土初となる「CHIIKAWA DAYS」の特別展も開かれています。
上海のちいかわイベント(CHIIKAWA DAYS)の状況。とても上質なファン体験で、来場者とスタッフが作り出す空気感も相当に高い pic.twitter.com/RN3Bu8tPCm
— 上海在住のえいちゃん (@Eichan_GZ) September 15, 2026
日本生まれの「ちいかわ」は、なぜ中国でここまで人気になったのでしょうか。
今回は中国本土での展開を中心に、実際の販売状況や中国メディア、公式資料、Redditで交わされたコメントを追いながら、その広がり方を調べてみました。
そもそも、中国ではどれくらい人気なのか
中国での「ちいかわ」の公式中国語名は「吉伊卡哇(ジーイーカーワー)」です。
ナガノ氏がX(旧Twitter)で発表してきた漫画を原作とする作品で、日本ではテレビアニメやグッズなどさまざまな形で展開されています。
中国で人気の大きさが数字として表れたのが、2024年3月29日に上海で始まった公式ポップアップストアでした。
開店から3日間の売り上げは約800万元。当時の為替で日本円にすると約1億7,000万円です。一時は入店待ちが約7,000人に膨らみ、店外での待機を止めるよう警察から指示が出たと報じられています。
ただ、ここで興味深いのは、「中国で大々的に売り始めたから人気になった」という順番ではなさそうなことです。
中国でポップアップ展開に携わった事業者は、2023年8月に日本へ視察に行った際、すでに日本のちいかわ売り場で大勢の中国人客が列を作っていたと証言しています。当時、中国では50社を超える企業が「ちいかわ」のライセンスをめぐって交渉していたとも報じられました。
つまり、中国で公式展開が本格化した2024年より前に、すでに相当の需要が生まれていたことになります。
入口は、やっぱり「かわいい」
では、何が最初の入口になったのでしょうか。
中国人や華人に質問するRedditコミュニティ「r/AskAChinese」で、「なぜちいかわがこんなに人気なのか」と尋ねた投稿には、かなりシンプルな答えも寄せられています。
単純に、見た目がかわいいからだよ。もし何か人を遠ざけるような要素があったら、すぐに見放されていると思う。
— u/Potential-Volume-580
「かわいいから」という身もふたもない答えですが、これは無視できなさそうです。
丸い顔、小さな手足、感情の分かりやすい表情。原作を知らなくても、画像一枚やぬいぐるみ一つで目に留まりやすいデザインなので、作品を最初から追わなくても入り口になります。
ただ、かわいいキャラクターなら他にもたくさんあります。
中国の人民網も、ちいかわについて、見た目のかわいさだけでなく、アニメによって各キャラクターの性格や物語の設定が積み重なっているため、「単なる可愛さ」にとどまらない魅力が生まれていると紹介しています。
働いて、失敗して、それでも暮らしていく
「ちいかわ」の世界では、登場人物たちはただのマスコットとして暮らしているわけではありません。
働いてお金を得たり、試験を受けたり、うまくいかないことがあったり、怖い目に遭ったりしながら、それでも友達と食事をしたり、小さな楽しみを見つけたりして暮らしています。
中国で「ちいかわ」のライセンス事業を手がける、アリババ系の「阿里魚(アリフィッシュ)」も、公式紹介で、努力して働くちいかわたちが、つらさもある日常の中で楽しみを見つけていく物語として作品を説明しています。
香港のRedditコミュニティでも、「なぜ人気なの?」という質問に、こんな返信がありました。
職場で起こるような場面がたくさんあって、共感しやすいと言われているよ。
— u/jimbolic
しかも、ちいかわの世界は、ただの「かわいい日常もの」でもありません。
草むしりだけでなく、危険な相手を倒す「討伐」も仕事として存在し、収入につながる資格試験もあります。怪物が現れることもあれば、努力したからといって何もかも思い通りになる世界でもありません。人民網も、こうした設定とともに、「つらいことや悲しいことがたくさんある世界で、ささやかな幸せを見つける」という作品世界を、中国の若者から支持される背景の一つとして紹介しています。
それでも、おいしいものを食べたり、友達と一緒に過ごしたり、ちょっとした出来事を心から喜んだりする。
かわいい見た目と、ときどき顔をのぞかせる不穏で少し理不尽な世界。その中でも小さな楽しみを大事にして暮らしているところまで含めて、ちいかわという作品の独特な魅力になっています。
中国メディアの澎湃新聞でも、「ちいかわの世界はユートピアではない」としたうえで、働いて稼ぎ、怪物と戦い、資格を取ろうとする設定や、その厳しい世界の中で登場人物たちが助け合って暮らす姿に注目しています。
「疲れた人を癒やすかわいいキャラクター」というだけではなく、そのかわいさの奥に、現実と少し重なる世界がある。それも、作品そのものに惹かれる理由の一つなのかもしれません。
中国では「表情包」と短い動画でも広がった
もう一つ、中国での広がりを考えるうえで外せないのがSNSです。
中国語圏には「表情包」という言葉があります。日本でいうLINEスタンプだけでなく、チャットで返事代わりに使う画像、GIF、ミーム画像などを広く指す言葉です。
ちいかわは、泣く、喜ぶ、震える、ぼう然とするといった表情がはっきりしているため、こうした使い方とも相性がよかったようです。
さらに中国では、表情包が単なる「かわいい画像」以上の役割も果たしています。
中国メディアでは、ちいかわの表情包に、自分では言いにくい不満や自虐、疲れた気分などを代わりに表現してもらうような使われ方があると紹介されています。かわいいキャラクターと、少し投げやりだったり皮肉だったりする言葉の組み合わせが、若者の気分と重なるというわけです。
実際、澎湃新聞の記事では、ちいかわがまず表情包として作品を知らない層にも広がったと紹介されており、表情包をきっかけに作品へ入ったファンの例も取り上げられています。
つまり中国では、必ずしも、
「漫画やアニメを見る → キャラクターを好きになる → 表情包を使う」
という順番だけではありません。
表情包や短い動画で先にキャラクターを知り、そこからグッズや作品そのものへ興味を広げる人もいるようです。
2024年1月1日には、中国語版アニメがBilibiliと、中国版TikTokにあたる「抖音(Douyin)」で配信開始。同年10月の時点で、Bilibiliの公式アカウントは約115万人のフォロワーを集めていました。
そして2025年9月に上海市が紹介した時点では、ちいかわのスタンプは中国のSNSで広く使われ、Bilibili上のアニメ短編は再生回数が1億回に迫っていました。
漫画を読む、アニメを見る、表情包を使う、短い動画を見る。
どこからでも入れる入口の多さは、中国での広がりを考えるうえで見逃せない部分です。
さらに、中国ではちいかわを使った独自のファン動画やミームも作られています。
2026年には、そうした中国発のファン動画を海外のちいかわファンがRedditで紹介していました。中国で作られたファン動画が、海外のファンにまで見られる例も出てきています。
先に人気があり、公式展開があとから追いついた
時系列を整理すると、中国での公式展開は「まだ知られていないキャラクターを宣伝してヒットさせた」というより、すでに生まれていた需要を追うように拡大していった面が大きそうです。
2023年には中国人客が日本でグッズを求めて列を作り、2024年3月には上海の公式ポップアップが大盛況となりました。
同年9月26日には中国初のオンライン公式旗艦店が開設され、10月には阿里魚と、「ちいかわ」の海外ライセンス事業を手がけるSpiralcuteが中国展開で戦略提携しています。
さらに2025年9月27日には、上海・南京東路に中国本土初の常設公式旗艦店がオープン。開店後しばらくは完全予約制となり、10月8日までの予約枠がすべて埋まりました。
2026年になると、4月に浙江省杭州で2号店、7月には南京で3号店が開業。その後も海南島の三亜、広州へと旗艦店が広がり、9月25日には深圳店も開業予定です。
正規の商品を買える場所や街中でちいかわに触れる機会が、人気を追うように中国各地へ増えていったことが分かります。
そして今は「中国でしか出会えないちいかわ」も
最近の展開でもう一つ目立つのが、中国向けにその土地の文化を取り込んでいることです。
上海の旗艦店では上海ガニや獅子舞を題材にした限定グッズが登場。杭州店では西湖や、中国・江南地方の伝統文化を取り入れた装飾や限定商品が用意されました。南京店にも街独自の限定シリーズがあります。
広州店と深圳店では、中国武術をテーマにした広東限定シリーズを展開。ちいかわたちが功夫服を着て、中国武術の詠春拳などで練習に使われる木製の人形「木人樁(もくじんとう)」の前に立つデザインも作られています。
上海で開催されている「CHIIKAWA DAYS 上海特別展」でも、焼き小籠包の生煎包や肉入り月餅、カニみそ入り小籠包など、上海の食文化とキャラクターを組み合わせた限定企画が展開されています。
杭州の旗艦店について、Redditではこんな投稿もありました。
だいぶ前のことではありますが、それでもみんなに共有したくなりました。中国本土で2店目のちいかわ旗艦店が杭州にオープンしました。中国風テーマの限定グッズもありました。中国でちいかわファンをやっていられる今は、本当にすてきな時代です。
— u/Alleymistt
日本のキャラクターをそのまま輸入して売るだけではなく、「上海で見るちいかわ」「杭州で見るちいかわ」「広東で見るちいかわ」が作られる段階まで来ているわけです。
なぜ中国で、ここまで人気になったのか
今回確認した資料を時系列に並べると、一つだけの理由で説明するより、いくつもの入口が重なって現在の人気につながったことが見えてきます。
まず、原作を知らなくても目に留まる「かわいさ」がある。表情包一枚や短い動画からでも入れる一方で、作品を追っていけば、働くことや失敗、友達との関係、少し不穏な世界、それでも大切にされる小さな幸福が見えてきます。
見た目だけでも楽しめるのに、深く追うほどキャラクターの性格や関係性、世界の不思議さが積み重なっていく。この「入口の広さ」と「追いかけたときの奥行き」が両立していることも、かわいさだけでは終わらない魅力の一つなのかもしれません。人民網でも、ちいかわについて、単なるかわいさだけでなく、キャラクターの性格や物語設定が加わることで魅力が深まっていると紹介されています。
そこへ、中国では表情包や短い動画という独自の入口が重なり、すでに生まれていた需要を追うように公式店舗や地域限定グッズも増えていきました。
中国でのちいかわ人気は、「かわいいから」でも間違いではなさそうです。ただ、そのかわいさから入った人が作品を好きになり、ネットで遊び、グッズを買い、今では中国各地でその土地ならではのちいかわに出会えるところまで広がっている。その積み重ねを見ると、現在の規模になった理由も少し分かる気がします。
参考情報と翻訳元
- 誕生から4年で国民的キャラ 今や「世界のちいかわ」に|nippon.com — 上海ポップアップの開業日、最初の3日間の売り上げ約800万元、最大約7,000人の入店待ち、警察による店外待機への対応を確認。
- 突然爆火!「清晨5点到场…」内卷的商圈为何喜欢它?|每日経済新聞 — 2023年時点の中国人ファンの日本での購買状況、上海ポップアップ、ライセンスをめぐる動きを確認。
- 日本の「ちいかわ」が中国の若者の「心の痛み止め」になっているワケは?|人民網日本語版 — 作品の設定、キャラクターの奥行き、「ささやかな幸せ」という世界観について確認。
- 年轻人的Chiikawa狂热:从表情包到“整形手术”|澎湃新聞 — 表情包から作品へ入る例、感情を代弁する使われ方、作品世界に対するファンの受け止めを確認。
- 小可爱有大市场,多项吉伊卡哇中国运营计划发布|澎湃新聞 — Bilibili・抖音での配信、Bilibili公式アカウントのフォロワー数、中国で語られている人気の背景を確認。
- 上海、ちいかわ中国本土初旗艦店がオープン|上海市人民政府 — 上海旗艦店の開業日、予約状況、Bilibili再生回数、上海限定商品を確認。
- 阿里魚「ちいかわ」IPページ — 中国でのライセンス運営、作品紹介を確認。
- 阿里魚 公式サイト — 杭州、南京、三亜、広州、深圳など中国各地の旗艦店展開を確認。
- 「CHIIKAWA DAYS 上海特別展」開催|上海市人民政府 — 上海特別展の開催期間と現地限定企画を確認。
- 粉丝请注意:吉伊卡哇落地穗深 首发广东独家限定系列|広州日報 — 広州・深圳旗艦店と、中国武術を取り入れた広東限定企画を確認。
- Reddit r/AskAChinese「Why has ちいかわ become so popular and widespread in 大中華圏????」 — 「かわいさ」に関するコメントの翻訳元。
- Reddit r/HongKong「Chiikawa-go-around August 1st TST gonna be packed」 — 職場や大人の日常への共感についてのコメント翻訳元。
- Reddit r/chiikawa_「I’m starting to fall into the Chinese Chiikawa rabbit hole」 — 中国発ファン動画についての確認元。
- Reddit r/chiikawa_「The second Chiikawa flagship in China is in Hangzhou」 — 杭州旗艦店についての投稿・コメント翻訳元。


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