「日本人だけど、正直なところ何を“Japanese fashion”と呼ぶのか分からない」。
2026年9月、海外掲示板Redditのファッションコミュニティ「r/jfashion」に、日本人ユーザーからこんな質問が投稿されました。
ユニクロも日本のブランドです。街を歩けば、日本人が普段着ている服も当然あります。ところが海外の一部で「J-fashion(ジェイ・ファッション、日本発のサブカル系ファッション)」と呼ばれているものを見ると、目立つのはロリータ、ギャル、デコラ、地雷系といったスタイル。
どうやら海外のJ-fashionコミュニティで使われる「J-fashion」は、日本人が普通に考える「日本のファッション」とは少し違うようです。
「ユニクロより、ロリータやギャル」
投稿者は、
ユニクロやゴシックロリータ、日本のファッションブランドなら分かります。
でも、みんなの投稿を見ていると、それ以外にも「Japanese fashion」とされているスタイルがたくさんあるように感じます。
ブランドなのか、服がどこから来たのか、スタイリングなのか、サブカルチャーなのか。みんなは何を基準に決めているんですか?
と質問しました。
返ってきた答えで目立ったのは、「日本製だからJ-fashion」という考え方ではありませんでした。
自分の場合は、日本で「生まれた」ファッションならJapanese fashionだと考えている。代表的なのはロリータ、デコラ、ギャルとか。
ユニクロのような日本ブランドかどうかより、そちらの方が大きいかな。
— u/Fickle_Amoeba_2493
別のユーザーも、
海外で「J-fashion」と言うと、オルタナティブ系や「かわいい」系のファッションについて話していることが多い。
英語でJapanese fashionと検索するのと、日本語で検索するのでは結果がかなり違う。
— u/Funny_Detective_4440
と説明しています。
もちろん、これはRedditコミュニティ内の使い方であって、「J-fashion」という言葉に世界共通の厳密な定義があるわけではありません。
実際、コメントにはコム・デ・ギャルソン、ヨウジヤマモト、イッセイミヤケなどを好む日本のハイファッションのファンもいる一方、オンラインで「J-fashion」と名乗るコミュニティは、ロリータやギャルなどのサブカルチャー系に寄りやすいという説明もありました。
なぜなのでしょうか。
そもそも、海外へ強く伝わった「日本のファッション」が特殊だった
日本の若者ファッションを研究してきた社会学者Yuniya Kawamuraは、ロリータを原宿、ギャルを渋谷、森ガールを高円寺など、特定の都市・スタイル・コミュニティと結びついたサブカルチャーとして扱っています。
2025年に刊行された同氏の研究書の新版でも、こうした日本のサブカルチャーファッションは、ソーシャルメディアによって従来の地域的な集まりを越え、世界各地で取り入れられ、現地なりに変化していると説明されています。
つまり、海外から見て特に名前を付けて語る価値があったのは、日本人が毎日着ている平均的な服よりも、
「これは日本で生まれたスタイルだ」
と分かりやすい服だったとも考えられます。
英国のヴィクトリア&アルバート博物館も、ロリータを1990年代の日本で生まれたストリートファッションとして紹介し、ヴィジュアル系との強い結びつきを説明しています。
Redditにも、こんな説明がありました。
普通の日本人が着ている服は、ほかの国で着られている服とそこまで違わない。
タグがなければユニクロのシャツがどこの国のものか分からないかもしれない。でもロリータのジャンパースカートなら、日本発のスタイルだとかなり分かりやすい。
— u/CYBRV4MPR
「日本で着られている服」ではなく、日本で生まれたと認識できるスタイル。
少なくとも今回確認した英語圏のJ-fashionコミュニティでは、この違いがかなり重視されているようです。
服より先に「写真」が海を渡っていた
ここで、かなり面白い研究があります。
Cambridge University Pressの学術誌に掲載されたゴシック・ロリータの研究では、海外へ広がっていった過程で、『KERA』や『Gothic & Lolita Bible』などの日本のファッション誌が大きな役割を果たしたとされています。
雑誌は海外へ持ち出され、やがて誌面がネット上で共有されるようになりました。
ところが、服そのものはそう簡単には渡りませんでした。
日本ブランドの商品は高価で、海外発送が難しい場合もあり、サイズも限られ、日本語を読めない人には注文そのものが難しかったためです。
このロリータ研究では、服そのものよりも、そのスタイルを写した画像の方が速く海外へ広がった様子が描かれています。
これは、今回のRedditにあった別の疑問ともつながります。
英国のユーザーが、
「日本ブランドはサイズが合わないので欧米ブランドを使いたい。でも、日本ブランドでなければJ-fashionではないと言われた」
と相談していました。
すると、上位コメントでは、
どこで服が作られたかではなく、そのスタイルがどこで生まれたかだと思う。
— u/awwyaka
という回答がありました。
別の人も、
J-fashionなのは日本製だからじゃない。大事なのはスタイルそのもの。ポーランド製でも、アメリカ製でも、中国製でもいい。
— u/xError404xx
と答えています。
一見すると不思議です。
「日本のファッション」なのに、日本の服でなくてもいい。
しかし、少なくともロリータでは、写真や雑誌によって「着こなし方」が先に国境を越えたと考えると、それほど奇妙ではありません。
先ほどの研究でも、その後は日本国外で独立系ブランドや小規模な服飾メーカーが生まれ、中国のメーカーも市場へ入ってきたことが記されています。
少なくとも海外のロリータでは、日本の商品を輸入して着るだけの文化ではなくなっていました。
海外では「何がそのスタイルなのか」を説明する場面もある
2026年3月、ギャルについて語るRedditコミュニティでは、
「日本のギャルは“マインド”を大切にすると話すのに、欧米のギャルはメイクを重視する人が多いのはなぜ?」
という質問が投稿されました。
コメントの一つは、
欧米では写真、雑誌、SNSなどからギャルを知る人が多いから、自然と最初はメイク、髪、服といった見た目に焦点が当たるのではないか。
— u/pinkxchaos
と考えていました。
さらに、
ネット越しでは、その人が「gal mind」を持っているかどうかは見えない。だからメイクが分かりやすい視覚的な目印になる。
— u/sc0shy
という意見もあります。
これはあくまでギャルコミュニティの利用者による説明で、「欧米へ渡ると必ず見た目が重視される」と確認された研究結果ではありません。
ただ、ロリータについては似た現象を扱った研究があります。
英語圏を含むオンラインコミュニティでは、
「どのくらい服を持っていればロリータなのか」
「ブランド品でなければならないのか」
「年に一度イベントで着るだけでもロリータなのか」
といった境界について、繰り返し議論されてきました。
研究者は、こうしたコミュニティでは「何が本物のロリータなのか」が継続的に交渉されていると指摘しています。
この研究とRedditの声を合わせると、日本では街、店、雑誌、音楽、友人関係などと一緒に共有されていたスタイルが、別の国やオンライン空間へ移ったとき、「何をすればそのスタイルなのか」を言葉で説明する場面が増えることもあるのかもしれません。
これは研究が直接証明した因果関係ではありませんが、今回のスレッドで「スタイルそのものがJ-fashion」と繰り返し説明されていた背景を考える一つの手がかりにはなります。
日本で目立たなくなっても、海外では終わらない
さらに興味深かったのが、森ガールについてのスレッドです。
投稿者は、ゆったりした服やアースカラーが好きで森ガールに興味を持ったものの、「日本では現在かなり見つけにくいスタイルになっている」と知り、似た服を探していました。
ところが返信で紹介されたのは、米国ブランド、中国の通販、日本の古着だけではありません。
ある人は英国のチャリティーショップで服を集めていると話し、韓国ブランドを挙げる人もいました。
このスレッドでは、「日本で今売っている服」だけを追うのではなく、さまざまな国や中古市場から使える服を探して、森ガールらしいスタイルを組み立てている人たちが見られます。
ここでも、日本という場所とJ-fashionというスタイルが少し離れています。
ロリータについても、Carrigerの研究では、多くの原宿ファッションが流行のサイクルの中で姿を消していく一方、ゴシック・ロリータはインターネットを通じて日本国外にも広がり続けたとされています。
さらに2025年のHui-Ying Kerrの研究では、日本のギャル/ロリータと英国のギャル/ロリータのコミュニティが比較されています。
そこでは、1990~2000年代に日本で登場した若者ファッションが後年海外で取り入れられ、英国では日本とは異なるサブカルチャー上の意味やニーズに合わせて変化していることが論じられています。
流行が日本で下火になれば、そのファッションまで世界から消えるとは限らないわけです。
「J-fashion」は現在の日本を映す鏡ではなかった
最初の日本人投稿者は、コメントを読んで、
自分はブランドのことだと思っていたけど、スタイルそのものなんですね。
— u/PineappleIll1960
と驚いていました。
今回確認した範囲では、英語圏のオンラインJ-fashionコミュニティで使われる「J-fashion」は、単純に「日本人が着ている服」を英語にした言葉ではなさそうです。
ロリータ、ギャル、デコラ、森ガール。
日本で生まれた特徴的なスタイルが雑誌やネットを通して海外へ渡り、現地の人たちが服を探し、作り、着こなし、時には「何がそのスタイルなのか」を改めて考えてきた。
だから日本ブランドでなくてもJ-fashionと考える人がいて、日本では以前ほど見かけなくなったスタイルが海外で続くこともあるのでしょう。
海外の「J-fashion」は、現在の日本人の服装をそのまま切り取ったものというより、日本で生まれたファッション文化の一部が海外で選ばれ、受け継がれ、作り変えられている場所と考えると、少し分かりやすくなります。
日本人が見て「これが日本のファッション?」と感じるズレそのものが、海を渡った後の歴史なのかもしれませんね。
参考情報と翻訳元
- Reddit「Japanese here — What actually counts as “Japanese fashion”?」
- 今回の記事の中心となったr/jfashionのスレッド。海外のJ-fashionコミュニティと、日本人投稿者が考えていた「日本のファッション」のズレを確認。 Reddit「Why are western gyarus so different compared to Japanese gyarus?」
- 欧米のギャルコミュニティで、見た目と「ギャルマインド」のどちらを重視するかについて交わされた議論。 Reddit「Is it still jfashion if it’s made by western brands?」
- 日本ブランド以外の服でもJ-fashionになるのか、という議論。服の生産国よりスタイルの起源を重視する意見を確認。 Reddit「any currently popular jfashion styles with this vibe?」
- 森ガール系のスタイルについて、日本国外のブランドや古着も利用しながら続けている例を確認。 Yuniya Kawamura『Fashioning Japanese Subcultures: Decentralization and Diversification as Neotribes』
- ロリータ、ギャル、森ガールなどを都市と結びついた日本のファッション・サブカルチャーとして整理し、ソーシャルメディアを通じた世界的な受容と変化を扱った2025年の第2版。 Victoria and Albert Museum「Lolita fashion: Japanese street style」
- ロリータの成立時期や特徴、ヴィジュアル系との関係を確認。 Michelle Liu Carriger「“Maiden’s Armor”: Global Gothic Lolita Fashion Communities and Technologies of Girly Counteridentity」
- ゴシック・ロリータが雑誌やインターネットを通じて海外へ広がった過程、日本ブランドの入手難、海外コミュニティにおける「何がロリータなのか」という境界の議論を確認。 Hui-Ying Kerr「Lolitas, Mountain Witches and Sexy Gals: Japanese Fashion as Rebellious Style from the Lost Decades to Now」
- 日本と英国のギャル/ロリータを比較し、日本国外でスタイルが異なるサブカルチャー上の意味を持つようになることを扱った2025年の研究。


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