(最終更新日:2026年9月14日)
「日本では歩きながら食べてはいけない」
「電車では話してはいけない」
「麺は音を立ててすすったほうがいい」
「日本は未来を生きている」
海外向けの日本旅行情報やSNSを見ていると、こんな説明を目にすることがあります。
どれも、まったく根拠のない話には見えません。
日本の公共交通では静かに過ごすよう案内されていますし、麺をすすって食べる人もいます。四角いスイカだって、本当に日本で作られています。
では、どこまでが実際の日本で、どこからが「日本ではこうする」というイメージなのでしょうか。
海外掲示板Redditの日本関連コミュニティを調べてみると、日本人や旅行者、日本在住者のあいだでも、この境目について意見は一致していませんでした。
「日本って、本当にそんなにルールが多い?」
2026年5月、Redditの日本旅行コミュニティで「Japan travel influencers are creating a myth.(日本旅行のインフルエンサーは神話を作っている)」という投稿が話題になりました。
投稿者が気にしていたのは、「日本で絶対に守るべき10のルール」「日本へ行く前に絶対知っておくべきこと」といった旅行情報です。
そのスレッドで、歩き食べについてこんなコメントがありました。
日本人だって歩きながら食べるよ!
とはいえ、「ここで食べるのはちょっと変じゃない?」とか「それを歩きながら食べるの?」っていう感覚は確かにあって、観光客とは少し感覚が違うなと感じることもある。
でも、本当にそこまで気にしなくて大丈夫!
ゴミを散らかさなければ問題ないよ。
— u/ryoryo333333
別の旅行者は、少し違う印象を持っていました。
日本にいたとき、買った食べ物を歩きながら食べないように書かれた屋台の看板を見た。3週間滞在して、歩きながら食べている日本人を見たのは一人だけだった。
だから、厳格なルールではなくても、そうするのは失礼だと思われることがあるのかもね。🤷🏼♀️
電車についてはその通り。話している日本人はたくさんいた。ただ、ドイツの電車でみんなが話すときと比べると、ずっと静かだった。電話については……🙈
— u/Aetherio_Nyx
この二つは、一見すると食い違っているように見えます。
でも、「禁止されてはいない」と「好まれない場面がある」は、そもそも両立します。
電車も同じです。「会話している人はいる」と「ドイツより静かに感じた」は同時に成り立ちます。
どうもこのあたりに、「日本では○○」という話ができる過程を考える手がかりがありそうです。
「マナー」が「絶対ルール」に変わるまで
実際のところ、日本で歩きながら食べることは禁止されているのでしょうか。
観光客の多い鎌倉市には、2019年から「公共の場所におけるマナーの向上に関する条例」があります。
名前だけを見ると、食べ歩きを取り締まる条例のようにも思えます。
ところが鎌倉市自身は、この条例について、歩きながら食べることを含む行為そのものを禁止・規制するものではないと明記しています。対象にしているのは、混雑した場所などで周囲へ迷惑をかける行為です。
日本政府観光局(JNTO)の英語情報を見ても、話は単純ではありません。
歩き食べが好まれない場合があると案内する一方、場所や食べ物、混雑状況によって事情は異なると説明するページもあります。
「混雑している場所では周囲に気をつける」
という話を初めて日本を訪れる人へ短く説明しようとすると、「歩き食べは避けたほうがいい」という言い方になりやすい。
さらに短くなれば「日本では歩き食べをしない」、そして「日本では歩き食べ禁止」になる。
少しずつ意味は強くなっていますが、出発点には実際のマナーがあります。
電車内での会話も似ています。
日本政府観光局の現在のマナーガイドでは、小さな声で話すこと自体は問題ないと説明されています。一方、電話で話したり、大きな声を出したりすることは控えるよう案内されています。
「電車では静かにしたほうがいい」は、実際の案内にかなり近い。
「電車では話してはいけない」になると、条件が一つ消えています。
旅行情報で見かける「日本では左側を歩く」も調べてみました。
少なくとも、日本全国の歩行者に「左側を歩く」と定めたルールはありません。道路交通法では、歩道や十分な幅の路側帯がなく、歩道と車道の区別がない道路では、歩行者は原則として道路の右側端を通行することになっています。
もちろん、駅構内や地下道、混雑した歩道では、人の流れが片側に寄ることがあります。
Redditにも、こんなコメントがありました。
そう、傾向ではあるけど、厳格なルールではないよ。
とはいえ、自分は人生の大半を徒歩で移動することの多いアメリカの都市で過ごしてきたけど、歩道で「どちら側を歩くか」が重要になるほど人が多い状況には慣れてなかった。
今回は、歩行者の流れがだいたい片側に寄っているのが分かった。多くは左側だったけど、人の流れの都合で反対になることもあったし、そうすることに意味があるのも分かった。
だから、「片側に寄って歩く」って教えてもらえたのは役に立ったよ。
— u/rainbowrobin
ここでも、旅行情報そのものが無意味だったわけではありません。
「人の流れに合わせる」という助言は役に立つ。
ただ、それが「日本人は左側を歩く」という全国共通の文化ルールになると、少し別の話になります。
「してもいい」が、いつの間にか「したほうがいい」に
さらに分かりやすい例がありました。
麺のすすり方です。
2026年1月、日本について日本人に質問するRedditコミュニティ「r/AskAJapanese」で、日本人の投稿者がこう答えています。
麺を大きな音ですすることかな。別にやらなくてもいいし、料理人への褒め言葉でもないよ。
すすって食べるのは、ただそうやって食べてるから。日本では麺をすすっても失礼じゃない。
箸を使って食べるのと同じようなもので、別に使わなきゃいけないわけじゃない。使いたければ使えばいい。
箸を使うことだって料理人への褒め言葉じゃないし、代わりにスプーンやフォークを使っても誰かを怒らせるわけじゃないよ。
— u/o0meow0o(日本)
ところが、現在の英語圏向け情報を探すと、違う説明も残っています。
2025年の旅行系記事には「麺をすするのは料理人への褒め言葉」とするものがあり、2026年に公開された別の記事にも、すすり音を「料理人への強い褒め言葉」と説明するものが見つかります。
一方、日本政府観光局の現在の案内はもっと控えめです。
ラーメン、うどん、そばなどをすすって食べることは一般に受け入れられているものの、旅行者自身がすすらなければならないわけではない、と明記しています。
最初にあるのは「日本では麺をすすっても失礼ではない」という情報です。
そこから「日本ではよくすすって食べる」「日本らしい食べ方だ」と説明され、さらに「料理を楽しんでいることを示す」「料理人への褒め言葉」と意味が強くなる例がある。
情報が完全に反転したというより、元の習慣の上に別の意味が少しずつ足されているように見えます。
本当にある。でも、どれくらいある?
マナーから少し離れてみます。
海外の日本紹介で昔から目立つものの一つに、四角いスイカがあります。
日本に2年半住んでいたというReddit参加者は、来日前のイメージをこう振り返っていました。
自分の場合、ネットで有名な「四角い果物」をもっとよく見かけると思ってた(笑)。
ここに住んで2年半になるけど、まだ一つも見たことない😂
— u/HelloPepperoni73
このコメントへの返信では、実際に見かけたという人もいました。
四角い果物は一時期流行ったけど、完全になくなったわけじゃない。
季節になると、町のちょっと高めのスーパーに四角いスイカが1個か2個並んでることがある。
去年は大阪でピラミッド型のスイカも見たよ。
— u/quequotion
一方が「2年半住んでも見たことがない」と話し、その返信では「季節によっては見かける」と返っているわけです。
調べてみると、四角いスイカそのものはネットが作ったものではありません。
香川県の「善通寺産四角スイカ」をご紹介🍉
— じぇー太【公式】JAタウン/みのりみのる/ニッポンエール (@JA_JAtown) June 6, 2024
👉 https://t.co/GLcChG86rt
四角い形に育てるため、型枠にはめて育てた観賞用のスイカです🍉旬の短い商材ですが、高級な鑑賞用スイカとして、首都圏を中心とした高級果選店などで販売されています😄#JAタウン #産地直送 #通販サイト pic.twitter.com/uHirTmAqq7
「善通寺産四角スイカ」は香川県善通寺市の地域特産品で、地理的表示(GI)保護制度にも登録されています。
地理的表示(GI)保護制度とは、その地域ならではの品質や評価を持つ農林水産物・食品などの名称を、国が登録して保護する制度です。
2025年7月1日の初出荷では、鑑賞用として約320個が出荷されました。ここでいう約320個は年間生産量ではなく、その日の初出荷数です。
四角スイカは本当にある。
でも、「日本にある」と「日本で日常的に見かける」は、かなり違います。
金継ぎも似ています。
割れたり欠けたりした陶磁器を漆で接着し、金や銀の粉で継ぎ目を装飾する金継ぎは、実在する日本の伝統的な修復技法です。
政府広報は金継ぎを伝統的な修復方法として紹介し、侘び寂びとの関係にも触れています。日本政府観光局にも、金継ぎを侘び寂びと結びつけて紹介する公式記事があります。
一方、Redditには、趣味で金継ぎをしている女性を見て、その場にいた日本人も興味を示していたという話や、日本人の義母が実際に割った器を金継ぎして返してくれたという体験談がありました。
四角いスイカも金継ぎも、海外で語られているもの自体が作り話というわけではありません。
ただ、「日本にあるもの」と「日本の日常を代表するもの」の間には、少し距離があるようです。
日本は「2050年」なのか、「2000年で止まっている」のか
もっと大きな日本像になると、話は少しややこしくなります。
2021年、Redditの日本在住者向けコミュニティ「r/japanlife」で、「日本に住み始めてから、間違っていたと分かった日本のイメージは?」というスレッドが立ちました。
その中で「ハイテクな日本」について、こんなコメントがありました。
「日本はハイテクな国」ってことかな。まあ、実際どうだったかはみんな知ってるよね(笑)。お前のことだぞ、缶の機械と使い勝手の悪いATM。
追記:しまった、スワイプ入力ミス。FAXのこと。缶の機械ならむしろ優秀。
— u/kantokiwi
最初の「缶の機械」は入力ミスで、投稿者が言いたかったのはFAXだったようです。
このコメントは2021年のものですが、「未来の日本」というイメージ自体は2026年になっても消えていません。
2025年5月11日には、日本での生活や文化を紹介するブラジル人YouTuberが、「Motivos pro Japão ESTAR vivendo em 2050(日本が2050年を生きている理由)」という動画を公開しています。2
2026年9月確認時点で約2400万回再生され、59万件以上の高評価を集めています。
その一方、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは2024年、日本のはんこやFAXなどを取り上げ、「未来的な日本」とは反対側の姿を紹介する動画を公開しています。
では、日本はハイテクなのでしょうか。それとも遅れているのでしょうか。
2024年度の日本の科学技術研究費は23兆7925億円で、過去最高でした。
また、WIPO(世界知的所有権機関)が公表する、各国・地域の研究開発や技術、人材などをもとにイノベーション力を比較する「世界イノベーション指数(Global Innovation Index)」では、2025年の日本は139の経済圏中12位でした。
特に、企業による研究開発や、高度な製品を生産・輸出する力、企業と公的研究機関の共同研究などで世界上位に入っています。
こうした数字から、日本に研究・産業技術で国際的に強い分野があることは分かります。
もちろん、これらは「日本人の日常生活がどれほど未来的か」や、行政サービスのデジタル化を直接測る数字ではありません。
一方、デジタル庁は2026年現在も、スマートフォンなどで行政手続が完結することを目標として、自治体の行政手続のオンライン化を進めています。
研究・産業技術を見たときと、行政手続を見たときでは、同じ国でも印象が変わります。
そして「未来の日本」というイメージは、ShortsやTikTokの時代に突然生まれたわけでもありません。
海外からアジア、とりわけ日本を「ハイテクで未来的だが、どこか異質な社会」と見る。そうした見方や描き方は、研究では「テクノ・オリエンタリズム」と呼ばれることがあります。
英国メディアが日本とテクノロジーの関係をどう描いてきたかを研究したChristopher J. Hayesは、その一例として、日本のロボットを扱った英国メディアの記事を分析しています。
その研究では、日本の技術が「西洋がこれから向かう未来」のように肯定的に描かれる記事がある一方、「技術を使いすぎる奇妙な社会」のように描かれる記事も確認されました。
「日本は未来を生きている」と「日本は時代遅れだ」は、正反対に見えます。
ただ、ウォシュレットやロボットを見て国全体を「未来」と呼ぶことと、FAXや紙の手続きを見て国全体を「過去」と呼ぶことは、一つの特徴から日本全体を説明するという点では、案外よく似ています。
昔の情報は、現実より長く残る
もう一つ、今回調べていて気になったのが「日本は現金社会」という説明でした。
この表現は2026年現在も旅行情報で使われています。
しかも、日本政府観光局が訪日旅行者向けに公開しているFAQにも、「Japan is still a cash culture(日本は今も現金文化です)」という説明があります。
ただし、その同じFAQでは、多くの店舗やレストランで主要なクレジットカードが使える一方、小さな店や民宿などでは現金のみの場合もあるため、現金を準備しておくよう案内しています。
一方、経済産業省が消費者の支払総額を基に算出した2025年の国内指標では、キャッシュレス決済比率は金額ベースで58.0%、162.7兆円でした。
金額ベースで見ると、すでに消費者の支払総額の過半がキャッシュレスです。
ただし、この58.0%は2025年から中心となった国内指標なので、従来の2024年42.8%と単純につないで「1年で15ポイント以上増えた」とすることはできません。算出に使う指標の定義が変わっています。
ここでも、「現金社会」という説明が完全に嘘になったわけではありません。
旅行中、現金しか使えない店に出会うことはまだある。そのため、旅行者に「現金を持っておいたほうがいい」と伝えるのは実用的です。
ただ、「現金を持っておいたほうがいい」と「日本は現金しか使えない国」の間には距離があります。
現実が変わっていく一方で、旅行情報では「現金社会」という短い言葉がまだ使われている。説明のほうが、変化の途中にある日本を一言では表しきれなくなっているのかもしれません。
なぜ「普通の日本」は残りにくいのか
ここまで見てくると、一つ疑問が残ります。
なぜ、こうした短くて強い日本像が繰り返されるのでしょう。
2026年3月、英語圏SNSの日本情報について尋ねたRedditスレッドで、ある参加者はかなり強い言葉で理由を説明していました。
SNSでコンテンツを作ってる人にとって、これはビジネスなんだよ。お金を稼ぐためにやってる。動画を見てもらって、「いいね」やコメントが増えるほど収入も増える。
「日本も他の国と変わらない国だ」なんて話は退屈で、誰もクリックもしなければコメントもしない。
真実そのものじゃ儲からないんだ。
だから、注目を集めるためにセンセーショナルな嘘や誤情報を作る。
「日本はこんなにひどい国だ!」「日本は世界でいちばん完璧な国だ!」ならコメントがたくさん付く。
「日本はこんなにクレイジーで変なんだ!」なら、さらに反応が増える。
嘘は儲かる。真実は退屈なんだ。
— u/ApprenticePantyThief
もちろん、これは投稿者自身の見方です。
「SNSでは極端な日本情報ほどアルゴリズムが優遇される」と、このコメントだけから結論づけることはできません。
ただ、もっと一般的なSNS研究には、強い感情や新奇性(目新しさや意外性)を伴う情報が広がりやすいことを示したものがあります。
2017年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)へ掲載された研究では、政治的な話題に関する56万3312件のツイートを分析しました。その結果、道徳と感情の両方に関わる言葉が一つ増えるごとに、投稿の拡散が約20%増える関連が報告されています。
2018年に科学誌『Science』へ掲載された別の研究では、約12万6000件の真偽判定済みニュースがTwitter上でどのように広がったかを分析しています。その結果、虚偽情報は真実より遠く、速く、深く、広く拡散し、新奇性も高かったと報告されました。
ただし、どちらも日本旅行や、「日本は2050年を生きている」とうたう日本紹介動画を調べた研究ではありません。
ですから、「この研究で日本関連動画が伸びる理由が証明された」とは言えません。
それでも、「日本はこういう国です」という穏やかな説明より、「日本で絶対にやってはいけない」「日本だけにある」「日本は2050年を生きている」「誰も教えてくれない日本の闇」といった表現のほうが、驚きや感情を伴うのは確かです。
そこへ、もう一つ別の事情が重なります。
先ほど紹介したChristopher J. Hayesによる別の研究では、英国メディアで日本について報じてきた外国特派員らへのインタビューも行われています。
そこで分析されているのは、単に「記者が日本を知らない」という問題だけではありません。
限られた時間、編集側が求める企画、減少する人員や予算、読者に記事を読んでもらう必要など、報道を作る側の構造的な事情も、既存の日本像が繰り返される背景として論じられています。
すでに「未来の日本」というイメージを知っている読者へ技術の話をするなら、その枠を使えば説明は短くできます。
「奇妙な日本」を知っている人には、また一つ珍しいものを見せれば話が通じる。
そのたびに地域差や頻度、例外まで説明するより、既に共有されている「日本らしさ」を使ったほうが話を作りやすい。
ここまで来ると、単純なクリックベイト(クリックを誘うための誇張した見出しや表現)だけの問題でもなさそうです。
その「日本らしさ」は、誰が作ったのか
そして、もう一つ忘れたくないことがあります。
日本像を作っているのは、本当に海外の人だけなのでしょうか。
Redditには、こんな話もありました。
日本にある程度長く住んで、いろんな人と接してきた人なら、日本人自身から「日本では[世界中どこでもやってるようなこと]をするんだよ」って、まるで日本だけのことみたいに説明された話がいくつもあると思う。
お気に入りの話が一つある。
ある同僚に、「日本では日本人はみんな納豆が好きなんだ」って言われた。
そこで隣にいた別の同僚に聞いてみたら、すぐに「自分は納豆が嫌い。えずきそうになる」って返ってきた。
最初の同僚がどれだけ裏切られたような顔をしてたか、たぶん伝わらないと思う。「たとえ俺が適当なことを言ってたとしても、外国人の前では話を合わせろよ」って顔に書いてあった(笑)。
— u/Jace678
もちろん、これは一人の体験談です。
ただ、日本人自身が海外の人へ日本文化を説明するときにも、「日本人はこうします」「日本ではこうです」と短く言ってしまうことはあり得ます。
そして、その歴史はSNSよりずっと古いようです。
第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に、Japan Tourist Bureauが発行した英語ガイドブックを調べた研究があります。
Japan Tourist Bureauは1912年に発足した訪日観光振興組織で、日本政府観光局の沿革にも登場します。
その研究では、日本が「歴史的でありながら近代的」「親しみやすい一方で異国的」な旅行先として、英語圏の旅行者へ向けて描かれていたことが示されています。
この研究は、現在のSNSと同じものを調べたわけではありません。
ただ、日本が海外から一方的にイメージを貼り付けられてきただけではなく、日本側の観光PRも「海外の人に日本をどう見せるか」に関わってきたことは分かります。
現在なら、海外メディア、旅行サイト、インフルエンサー、日本政府観光局、日本人の発信者、アニメやゲーム、実際に旅行した人の口コミ。
「海外から見た日本」は、そのどれか一つが作ったものではなく、いろいろな場所を行き来しながら出来上がっているのでしょう。
実際、今回のReddit調査では「旅行系インフルエンサーの誇張」を批判しながら、Reddit自身も旅行情報を大げさにすることがあり、そこで繰り返された話が再びSNSの「旅行のコツ」に使われる、と指摘する人までいました。
情報の出発点を探そうとすると、だんだん円を描き始めます。
では、海外で語られる日本は「間違い」なのか
ここまで調べても、「海外で語られる日本は間違っていた」という話にはなりませんでした。
歩き食べが好まれない場面は本当にあります。電車では大声や電話を控えることが求められていますし、麺をすすって食べる人もいます。
四角いスイカは本当にあります。金継ぎも実在する伝統技法です。
日本には研究・産業技術で国際的に強い分野があり、現金を持っていたほうが困らない場所も残っています。
むしろ、元になった現実があるからこそ、話が残りやすいのかもしれません。
今回調べていて印象に残ったのは、完全な作り話よりも、「本当だけれど条件が抜けている話」の多さでした。
「場合によっては」
「一部では」
「以前は」
「比較すると」
「珍しいけれど」
そうした言葉が一つずつ消えると、最後には、
「日本では○○」
だけが残ります。
そしてこれは、日本を褒める場合でも批判する場合でも起こります。
「日本は未来を生きている」と「日本は時代遅れだ」。
「日本人はみんな礼儀正しい」と「日本人の礼儀は表面的だ」。
評価は反対でも、一部分から「日本」という大きなものを説明しようとしている点では、どこか似ています。
海外で語られる日本を見たとき、「それは本当か、嘘か」だけではなく、
「どこで?」
「いつ?」
「どのくらい?」
と少し条件を戻してみる。
そうすると、最初に見えていたものとは少し違う日本が出てくることがあります。
そして、日本についての話に限らず、私たちが海外について知っている「常識」の中にも、同じように何かが抜け落ちたものがあるのかもしれませんね。
この記事に関連するおすすめ書籍
『日本人論の危険なあやまち 文化ステレオタイプの誘惑と罠』
高野陽太郎 著
「日本人は集団主義」「欧米人は個人主義」といった、広く知られている日本人像はどこまで本当なのでしょうか。
認知科学を専門とする著者が、さまざまな研究をもとに、日本人について語られてきた「常識」を検証した一冊です。
なぜ一つの特徴が「日本人はこういう人たちだ」というイメージへ広がり、そのイメージが長く残っていくのか。今回の記事で取り上げた「日本では○○」という説明について、もう少し深く考えてみたい方にもつながる内容です。
参考情報と翻訳元
- Reddit「Japan travel influencers are creating a myth.」 — 日本旅行の「絶対ルール」、歩き食べ・電車内マナーなどについての議論
- Reddit「What is something about daily life in Japan that foreigners often misunderstand or overthink?」 — 麺のすすり、金継ぎなどについてのコメント
- Reddit「What are some beliefs about Japan that turned out to be false once you started living here?」 — 四角い果物、ハイテク日本などについてのコメント
- Reddit「What do you think about absurdly exaggerated misinformation about Japan on English social media?」 — SNS上の極端な日本像についての議論
- 鎌倉市「鎌倉市公共の場所におけるマナーの向上に関する条例について」 — 食べ歩き自体を禁止・規制する条例ではないことを確認
- 日本政府観光局 Canada「Japanese Etiquette 101: Eleven Things to Keep in Mind Before Travelling to Japan」 — 歩き食べは一律の禁止ではなく、場所・食べ物・混雑状況などによることを説明
- 日本政府観光局「Japanese Manners Do’s and Don’ts」 — 電車内のマナーや食事マナーについて
- 日本政府観光局「Japanese Food Etiquette Guide」 — 日本の食事文化について
- 日本政府観光局「FAQ」 — 現金・クレジットカードなどについての現在の旅行者向け案内
- e-Gov法令検索「道路交通法」 — 第10条の歩行者の通行位置について
- 農林水産省「地理的表示(GI)保護制度」 — 地域と結びついた産品の名称を知的財産として保護する制度について
- NomNom JP「Slurping Noodles(Ramen) Like a Local: I Thought I Was Being Rude—Turns Out I Wasn’t Loud Enough」 — 麺のすすりを料理人への褒め言葉として説明する2025年の例
- JapanUp! magazine「Why Is It Polite to Eat Loudly in Japan? (The Secret Science of Slurping)」 — すすりを料理人への強い褒め言葉として説明する2026年の記事
- 香川県「『善通寺産四角スイカ』出荷開始」 — 2025年7月1日の初出荷約320個について
- 農林水産省「善通寺産四角スイカ」GI登録資料 — 善通寺産四角スイカの地域特産品としての位置づけ
- 政府広報「Kintsugi: The Healing Power of Pottery Repair」 — 金継ぎの伝統的修復技法としての説明
- 日本政府観光局「The Art of Imperfection: Kintsugi Pottery, Wabi-Sabi and Sustainability」 — 金継ぎと侘び寂びの関係について
- YouTube「Motivos pro Japão ESTAR vivendo em 2050」 — 2025年5月11日公開。2026年9月確認時点で約2378万回再生
- 総務省統計局「科学技術研究調査」 — 2024年度の日本の科学技術研究費
- WIPO「Global Innovation Index 2025 — Japan」 — 各国・地域のイノベーション力を比較する国際指標
- デジタル庁「行政手続のオンライン化」 — 行政手続のデジタル化の現在地
- 経済産業省「2025年のキャッシュレス決済比率を算出しました」 — 2025年の国内指標58.0%、162.7兆円
- 日本政府観光局「沿革」 — 1912年のジャパン・ツーリスト・ビューロー発足について
- Christopher J. Hayes「Utopia or Uprising? Conflicting Discourses of Japanese Robotics in the British Press」 — 英国メディアにおける日本のロボット・技術表象について
- Christopher J. Hayes「Othered, Orientalised, and Opposingly Depicted: The Persistence of Stereotyping of Japan in the British Press」 — 英国メディアで日本のステレオタイプが繰り返される背景について
- Dori Griffin「How to See Japan: Japan Tourist Bureau Guidebook Images for Interwar Anglophone Tourists」 — 第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の海外向け日本観光イメージについて
- Brady et al.「Emotion shapes the diffusion of moralized content in social networks」 — SNS上の感情的な言葉と情報拡散の関係を分析した研究
- Vosoughi, Roy & Aral「The spread of true and false news online」 — Twitter上で真実と虚偽情報の拡散を比較した研究


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