なぜフランスでは英語版がない漫画まで出版されるの? 漫画大国になった理由を調べてみた

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(最終更新日:2026年9月22日)

「フランス語版はあるのに、なぜ英語版がない漫画がこんなに多いんだろう?」

2024年、海外掲示板Redditの漫画コレクター向けコミュニティ「r/MangaCollectors」に、そんな疑問が投稿されました。

Why are so many mangas translated in French but not English?
by u/Sad-Intention-6344 in MangaCollectors

コメント欄では、フランスの漫画市場の大きさを理由に挙げる人が多くいます。

ただ、調べてみると、理由は単に「フランス人が漫画をたくさん買うから」だけではなさそうです。

フランスでは、日本のアニメがテレビで大量に放送された時代から数十年をかけて読者層が育ち、もともと存在した漫画文化の上に、日本漫画を扱う多くの出版社が育っていました。

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「1〜2巻しか出ていなくても欲しがる」

あるコレクターは、以前読んだ記事の記憶と自身の推測を交えて、こう説明しています。

日本に次ぐ2番目に大きな市場だからね。

それと、日本の出版社がフランスの出版社について話している記事を読んだことがある。

そこでは、フランスの出版社はクレイジーだと言われていた。まだ1巻か2巻しか出ていない漫画でも、「出版したい」と言ってくるから。

だから、その漫画が将来打ち切られたり、人気が出なかったりする可能性があっても、自分たちのカタログに加えるリスクを取っている。

もしかすると、それがフランスでは英語版より先まで刊行されているシリーズや、英語では出版されていないシリーズまである理由なのかもしれない。

例えば、『トモダチゲーム』はまだ英語では紙の本が出ていなかったと思うけど、フランスでは18巻まで出ている。『魔入りました!入間くん』も英語では5巻未満なのに、フランスでは22巻まで出ている。

— u/Op_Collector

ここでいう「カタログ」は、その出版社が扱う作品の一覧や品ぞろえのことです。

これは2024年当時のコメントなので、作品の刊行状況は現在とは異なる可能性があります。

また、「1〜2巻しか出ていなくても権利を取りに行く」という部分は、この投稿者が記憶していた記事の内容です。

では、実際のフランスの出版市場はどうなっているのでしょうか。

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2024年には3600万冊が売れた市場

「フランスは日本に次ぐ世界2位の漫画市場」という説明は長年よく使われてきました。

ただ、近年はアメリカ市場も拡大しており、売上額、販売冊数、人口比など、比較する基準によって順位の見え方が変わります。

そこで、ここでは順位よりフランス市場そのものを見てみます。

フランスの放送・デジタル分野の規制機関Arcomが2025年に公表した調査によると、2024年にフランスで売れた漫画は3600万冊。売上高は3億900万ユーロでした。

フランス出版組合(SNE)は2025年の発表で、国内に約700万人の漫画読者がいるとしています。

同じ発表によると、2024年の漫画の販売冊数は前年比9.3%減少しました。コロナ禍の急成長期からは落ち着いてきましたが、依然として大きな読者層を持つ市場です。

日本漫画が広まる前から「漫画を読む文化」があった

その土台の一つになったのが、「バンド・デシネ(BD)」です。

BDはフランスやベルギーを中心に発達した漫画文化で、『アステリックス』や『タンタン』などが代表的です。日本漫画が本格的に広がる以前から、フランス語圏には漫画を本として買い、作品として評価する文化がありました。

フランスではBDが「第9の芸術」と呼ばれるほど、一つの表現分野として定着しています。

つまり、日本漫画は「漫画そのものに馴染みのない国」へ突然入っていったわけではありません。

すでに大きな漫画文化があったところへ、日本から別の形をした漫画が入ってきたのです。

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子どもたちは、テレビで『ドラゴンボール』を見て育った

もう一つ大きかったのがテレビです。

フランスで日本アニメの普及を語るとき、何度も登場するのが子ども向けテレビ番組「Club Dorothée(クラブ・ドロテ)」です。

フランス国立視聴覚研究所(INA)の記録によると、Club Dorothéeはフランスの民放テレビ局TF1で1987年から1997年まで放送されました。

その番組内では、多くの日本製アニメも放送されています。

例えば、1989年11月15日の放送記録を見てみると、

  • 『ドラゴンボール』
  • 『聖闘士星矢』
  • 『北斗の拳』

と、日本人にも馴染みのある作品が同じ日の番組内に並んでいます。

専門店へ行ったアニメファンだけが見ていたのではなく、子ども向けテレビ番組の中に日本アニメが組み込まれていた時代があったわけです。

アニメが漫画を読む入口になった

テレビで日本アニメに触れる機会が増え、その後、日本の漫画もフランスの出版市場へ広がっていきました。

最初からすんなり受け入れられたわけではありません。

日本漫画は、当時フランスで親しまれていたBDと比べると、小型で白黒。右から左へ読む形式も一般的ではありませんでした。

そのため、読者に合わせた工夫も行われています。

『ドラゴンボール』を出版する出版社グレナ(Glénat)は、かつて日本版とは逆の、左から右へ読む「フランス式」の版を刊行していました。同社は、この版が右から左へ読むことに慣れていなかった初期の読者に漫画を知ってもらう助けになったと説明しています。

2021年には、このフランス式の版の販売を終了し、日本版と同じ読書方向の版に統一する方針を示しました。

またINAによると、1990年代初頭には、フランスのテレビ報道で日本漫画を暴力的で理解しにくいものとして警戒する見方もありました。しかし1990年代半ばになると、『ドラゴンボール』などの成功とともに、徐々に一つの文化として受け止められるようになっていきます。

テレビですでに日本作品を知っていたことに加え、出版社側も読み方などを現地の読者に合わせながら市場を広げていったことが分かります。

こうしてアニメは、日本漫画を読む入口の一つになっていきました。

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出版社が多ければ、扱われる作品も広がる

そして、最初の「なぜフランス語版だけある作品が出てくるのか」という疑問に直接関わってくるのが、出版社です。

例えば、ピカ・エディション(Pika Édition)という漫画出版社について、親会社のLagardèreは、2000点以上の刊行物をそろえ、年間350点以上の新刊を出していると紹介しています。

ほかにもGlénat、Kana、Ki-oon、Kurokawaなど、日本漫画を扱う出版社が複数存在します。

日本側から見ても、フランス出版社には長い経験があります。

2022年、フランス紙『ル・モンド』の取材を受けた講談社の幹部サトル・マツモト(Satoru Matsumoto)氏は、フランスの出版社について、漫画を扱ってきた歴史が長く、作品への理解が深いと説明しています。インタビューでは当時、講談社の副社長・取締役として紹介されています。

市場が大きく、日本漫画を扱う出版社が複数あれば、各社が異なる読者層に向けて作品を探す余地も広がります。

大ヒット作品だけでなく、日本で始まって間もない作品や、英語版が刊行されていない作品にもフランス語版が生まれる背景の一つとして、こうした出版環境は考えられます。

ただし、ここから分かるのは「フランス語版が生まれやすい背景」までです。

特定の作品に英語版がない理由は、出版社ごとの権利取得、採算、刊行方針などによって異なるため、今回の資料だけでは判断できません。

文化パスも、漫画購入の追い風になった

2021年には、漫画市場に別の追い風もありました。

フランス政府は、18歳の若者が本、映画、音楽、舞台などに使える「pass Culture(文化パス)」を全国展開しました。当時は1人300ユーロ分の文化支出枠が用意されていました。

利用先として人気を集めたのが本でした。

フランス文化省の調査によると、2021年5月から2023年11月までに文化パスで利用された「本」の予約件数のうち、「BD・コミック・漫画」を合わせたカテゴリーが42%を占めています。

文化パスを使った本の購入では、コミック分野が大きな割合を占めていました。

もちろん、文化パスによってフランスの漫画人気が生まれたわけではありません。

すでに何十年もかけて読者が育っていたところへ、若者が文化商品を購入しやすくする制度が加わった、と見る方が自然でしょう。

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フランス語版の豊かさを支える、長い積み重ね

フランスには、もともとBDという大きな漫画文化がありました。

1970〜90年代には日本アニメがテレビで広く放送され、子どものころから日本作品に触れる世代が育ちます。

その後、日本漫画を扱う出版社も増え、長い経験を持つ出版市場が形成されていきました。

2024年にも、フランスでは3600万冊の漫画が売れています。

「フランス語版はあるのに英語版はない」という現象の背景には、何十年もかけて育った読者、テレビ文化、漫画市場、出版社の厚みがあります。

英語圏より人口の少ないフランスで、思いがけない日本漫画の翻訳が見つかる。

その不思議さは、フランスが日本漫画をかなり早い時代から自国の出版文化の中へ取り込んできた結果なのかもしれません。

参考情報と翻訳元

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