なぜイスタンブールでは猫が街の一員のように暮らしている? 歴史と地域の世話を調べてみた

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(最終更新日:2026年9月22日)

人でにぎわう通りの真ん中で、お腹を上にして眠る猫。

2024年、トルコを旅行していた海外掲示板Redditのユーザーは、あまりに無防備なので、けがをしているのか、死んでいるのではないかと確認したそうです。

Türkiye so safe for cats they just nap belly-up on the street 😁
by u/Rengar-Pounce in TurkishCats

ところが猫はただ昼寝をしていただけ。しかもそこは、祝日のかなり混雑した通りでした。

イスタンブールでは、店先や公園、住宅街などでこうした猫の姿を見かけます。では、なぜ飼い主のいない猫たちが、これほど街の中に溶け込んで暮らしているのでしょうか。

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「野良猫」というより「近所のみんなの猫」

2019年、初めてイスタンブールを訪れた旅行者は、街で見た光景にかなり驚いていました。

猫や犬が路上にいるのに、人々は特に追い払おうとしません。時々撫でたり、餌を与えたりしています。寒い夜には、店の中に猫用のベッドまで用意されていたそうです。

投稿者は思わず、「こんなユートピアが隠れていたなんて?」と書いています。

トルコの人たちに「なぜなのか」と尋ねた別のスレッドでは、こんな説明がありました。

特別な理由があるわけじゃない。たぶん、動物に対する見方がもっと好意的なんだと思う。

私たちは街で動物を見ながら育つから、自分から近づくことにも、向こうから近づいてくることにも慣れている。祖父と公園へ行けば、撫でてもらおうと野良犬が後ろをついてきた、というような楽しい記憶もできる。たいてい害はなく、ほかのペットと同じように、愛情をもらったり、おやつを食べたりしたいだけなんだと、すぐに分かるようになる。

小さいころから、ベランダに巣を作るハトを見たり、猫が生まれたばかりの子猫を育てるところを見たり、田舎の祖父母の家へ行けば子犬と遊んだりする。そうやって動物を自分たちの世界の中に取り込み、それぞれに感覚や個性がある存在だと認識するようになるんだと思う。

多くの国では、野良動物は家のない厄介者のように扱われている。トルコの野良動物は、基本的に公のものというか、地域のみんなで飼っているペットみたいなものだ。

— u/Crusty_Blob

このコメント一つをトルコ全体の考え方とみなすことはできません。ただ、「個人宅のペットではないのに、誰か一人だけの責任でもない」という感覚は、ほかのスレッドにも出てきます。

2023年のr/istanbul(イスタンブールについて話すRedditコミュニティ)では、集合住宅の住民がこんな日常を紹介していました。

地域の人たちが猫の世話をしているのは本当。ただ、もちろんそこからこぼれ落ちて、路上で苦労している猫もいる。

生まれつき病気だったり、母猫がいなかったり、車や犬によってけがをした猫は苦労するし、残念ながら長く生きられないこともある。

それでも、地域の人たちができる限り世話をしているのは確かだよ。あちこちで小屋や水、餌を見かける。

私が住んでいる集合住宅では、みんなでお金を出し合って、小さな庭にいる5〜6匹の猫の面倒を見ている。うちだけじゃなくて、多くの集合住宅がこんな感じだよ。

— u/Fap-and-dump

「誰かの猫」ではなくても、いつもの庭にいる猫、いつもの店先にいる猫として世話をする。旅行者が目にする餌皿や水、小屋の背景には、こうした日常があります。

地域での世話に加えて、自治体にも獣医サービスがある

餌や水なら近所の人たちで用意できますが、病気やけが、避妊・去勢となれば、それだけでは対応できません。

イスタンブール大都市自治体は、飼い主のいない動物にワクチン接種、避妊・去勢、治療などを行っています。

猫については、引き取り手が見つからなければ処置後に捕獲された場所へ戻すと説明しています。交通事故などによるけがには、時間外や休日も含む24時間体制で対応しています。

2026年1月から8月末までには、猫だけではなく飼い主のいない動物全体で、11万4714件の診察・治療、2万8025件のワクチン接種、2万7716件の避妊・去勢を行ったと市は公表しています。

自治体で治療や避妊・去勢を受けた猫も、引き取り手がいなければ元いた場所へ戻ります。地域で世話されていた猫が、処置後にまた同じ街で暮らしていく仕組みです。

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オスマン時代には「街の動物に餌を与える仕事」があった

こうした街の動物への世話は、歴史資料にも登場します。

2026年のRedditスレッドでは、一人の参加者がその背景をこう説明していました。

理由はいくつかあると思う。別の動物だった可能性もあるけれど、猫はイスラム文化では清潔さを象徴する面もある。預言者の教えから、猫はとても尊重されている。

それに、困っているものを助けたり、餌を与えたりする街の文化もある。オスマン時代の街にいた「マンジャジュ」は、街の動物についての一例だね。人々がお金を払うと、街の動物に餌を与える移動販売人だ。

猫の側からすれば、これは何世代にもわたって受け継がれた知識でもある。人間は自分たちを傷つけず、むしろ助けてくれると知っている。

— u/Raptor1251

ここでいう「預言者」は、イスラム教の預言者ムハンマドです。また、最後の「猫が人間は助けてくれると知っている」という部分は、このコメントを書いた人の解釈です。

一方、「マンジャジュ」という仕事については資料から確認できます。

かつてイスタンブールを都としたオスマン帝国について調べた2022年の研究では、16〜19世紀にイスタンブールを訪れた旅行者の記録などが使われています。

それによると、マンジャジュは棒にレバーや脾臓などの内臓肉を下げて街を歩き、市民はそこから肉を買って犬や猫に与えていました。お金を渡し、継続的に動物へ餌を与えてもらうこともあったといいます。

2019年に学術誌『History and Anthropology』へ掲載された研究では、現代のイスタンブールで住民が猫に料理を作ったり餌を配ったりする行為について、オスマン時代の慈善や動物への配慮が、地域の暮らしの中で記憶として受け継がれていると論じています。

街の動物へ食べ物を与える姿は、少なくともオスマン時代のイスタンブールの記録にも残っているわけです。

宗教上の教えも背景の一つ

スレッドでは、イスラム教との関係を挙げる人も少なくありません。

預言者ムハンマドの言行を伝える主要なハディース集『サヒーフ・ムスリム』には、猫を閉じ込めたまま餌や水を与えず、外で食べ物を探すことも許さなかった女性が罰を受けたという伝承があります。猫を不当に苦しめることを戒める内容です。

今回参照した2019年の研究では、現代の動物への世話を、イスラム的な慈善に加えて、オスマン時代から地域の暮らしの中で受け継がれる記憶とも結びつけています。

宗教上の教えも、現在のイスタンブールで見られる動物との関係を形づくってきた背景の一つと考えられます。

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「この地域は猫の故郷だから」という説明は?

スレッドでは、アナトリア(現在のトルコのアジア側にあたる地域)やその周辺が家猫の故郷だから、という説明も出ていました。

猫の起源については、近年の研究で見直しが進んでいます。

2017年の古代DNA研究では、近東(東地中海から西アジアにかけての地域)の猫とエジプトの猫が異なる時期に広がったと報告されました。2022年に1000匹以上の猫を調べた遺伝学研究でも、家猫の起源の中心として東地中海周辺を支持する結果が示されています。

ところが2025年に科学誌『Science』へ掲載された研究では、古代と現代の猫87点の遺伝情報全体(ゲノム)を解析した結果、家猫が農耕の広がった新石器時代に農耕民とともにヨーロッパへ渡ったという従来の説明は支持されませんでした。ヨーロッパへの広がりは約2000年前で、おそらく北アフリカからだったとしています。家猫そのものがどこで成立したのかについては、東地中海沿岸やエジプトなどを含め、なお不確実性が残っています。

そのため、「この地域が猫の故郷だから現在のイスタンブールにも猫が多い」と、そのまま結びつけることはできません。スレッドで挙がった説の一つとしては興味深いものの、現在の猫の数を直接説明する根拠とは分けて考えた方がよさそうです。

「猫の楽園」でも、屋外で暮らす以上は問題がある

ここまで見ると、イスタンブールが「猫の街」として知られるのも分かります。

ただ、スレッドには、その風景を必要以上に美化しないでほしいという声もありました。

トルコの猫たちは、今も良い状況にあるとは言えない。

地域の人から餌をもらっていても、多くの猫がノミや寄生虫などの病気、そして深刻な過剰繁殖に苦しんでいる。

避妊・去勢プログラムを行わないまま大量の猫を路上で暮らさせて、それで大丈夫だと考えるのはよくない。深刻な健康問題の危険があるし、実際より問題が小さいかのように見せないでほしい。

多くの猫は病気で助けを必要としていて、街の屋外で健康に暮らしているわけではない。

— u/yourmomx69x420

寄生虫については、イスタンブールで実際に調査が行われています。

2026年に発表された研究では、2022年6月から2025年2月にかけて、ボスポラス海峡を挟んでヨーロッパ側とアジア側に分かれるイスタンブール市域のうち、アジア側で飼い主のいない猫1000匹の便を調べました。

そのうち434匹分、43.4%から、回虫など少なくとも1種類の消化管寄生虫が検出されました。特に生後6か月未満の子猫では、検出率が高い結果となっています。

この調査で分かるのは寄生虫が検出されたかどうかで、症状の重さではありません。

地域で手厚く世話される猫もいれば、病気や事故などの危険にさらされる猫もいる。「幸せな野良猫」という一言だけでは、イスタンブールの猫たちの暮らしすべてを表すことはできません。

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街に暮らす猫を、街で世話する

イスタンブールで旅行者の目を引くのは、猫の姿そのものだけではないようです。

飼い主がいなくても地域から切り離されず、住民や店が日常的に餌や水を与える。必要になれば自治体による治療や避妊・去勢があり、引き取り手のない猫は元いた場所へ戻されます。そして街の動物へ食べ物を与える姿は、オスマン時代の記録にも残っています。

Redditには、この関係を冗談交じりに一言で表した人もいました。

猫がトルコの持ち主なんだよ。食べ物と水、それからたっぷり撫でることと引き換えに、俺たちもここに住まわせてもらってる。☺️

— u/rasnac

人と猫が同じ街を共有し、その猫を周囲の人が少しずつ世話する。そんな関係が、イスタンブールで旅行者が目にする猫のいる風景を支えているようです。

参考情報と翻訳元

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