最終更新:2026年9月2日
ワールドカップでは、自分の国を応援するのが一番分かりやすい楽しみ方です。
国旗を掲げたり、ユニフォームを着たり、試合のたびに一喜一憂したり。
ところが、自国代表が本大会に出場していない、または負けてしまったら、その場合はどこを応援するでしょうか?
Redditの「自国がW杯に出場しないなら、他にどの国を応援する?」という投稿には、さまざまな答えが寄せられていました。
「隣の国」
「家族にルーツがある国」
「昔住んでいた国」
「好きな選手がいる国」
「アンダードッグ(挑戦的な立場の国)」
なかには、最初から一つに決めず、応援していた国が敗退するたびに別の国へ移っていく人も。
こうしてコメントを見ていくと、「どの国が好きか」というより、その国と自分の間にどんな接点があるのかで応援先を選んでいる人が少なくないようです。
自国がいないなら、まず「近い国」を応援する
POV: Your country isn’t included in the World Cup. Who else are you rooting for?
by u/DeathByToblerone in AskTheWorld
今回のスレッドでは、近隣国や同じ地域の代表を応援するという回答が目立ちました。
北欧のユーザーからは、他の北欧諸国を応援するという声が複数あります。
アイスランド、デンマーク、フィンランド、スウェーデンなど具体的な国名を挙げる人もいれば、「北欧の国が出ていれば応援する」という人もいました。
同じ地域に属する国を、自国に次ぐ応援先として見る人は少なくないようです。
ただ、地理的な近さが、そのまま親近感につながるとは限りません。
スコットランドのユーザーからは、自国がW杯に出ないのはいつものことだとしつつ、「イングランドと対戦するチームを応援する」というコメントも。
一方、イングランドからは、スコットランドやウェールズ、北アイルランドなど、他のホーム・ネーションズを応援するという人もいます。「他のホーム・ネーションズを応援する。弟を見ているようなもの」という声もありました。
同じイギリス周辺の代表を応援する場合でも、そこにある感情は一つではありません。
近いから応援する人もいれば、長年のライバル(歴史的にも)だからこそ、その対戦相手を応援する人もいる。
地理的な近さだけではなく、地域としてのつながりやライバル意識まで含めて、応援する相手が決まっているようです。
「家族(親戚)がいるから応援する」は、国籍だけでは説明できない

地理的な距離より、もっと個人的なつながりを理由にする人もいます。
あるユーザーは、アルゼンチンに親戚がいることを理由に同国を応援すると答えていました。
別のユーザーはウェールズを応援する理由として「ウェールズ人に家族がいる」と説明しています。
「スペインはほとんど第二の故郷」という人もいれば、メキシコ人のパートナーがいるためメキシコを応援するという人もいました。
そして、現在日本に住んでいるため日本を応援するという回答も。
ここでは「自分はどこの国の人間なのか」だけでは、応援先を説明できません。
生まれ育った場所、家族の出身地、今暮らしている場所、過去に住んでいた場所。
本人にとって身近な国が複数ある場合、そのすべてが代表チームへの愛着につながることがあります。
ただ、これはサッカーに限った話でもないようです。
W杯におけるファンの帰属意識を研究した論文(リンクは記事下部にまとめています)では、応援する国を「出身国か、現在住んでいる国か」という二択で捉えることは難しく、移住やメディア、選手、観客などを通じた越境的な親和性が代表チームへの支持に関係すると論じられています。
別の研究でも、移民の背景を持つ代表選手やディアスポラ(故郷や祖国を離れ、世界各地に散らばって暮らす人々のこと)との関係から、サッカーにおける国籍や帰属意識は単純なものではないと指摘されています。
「自国ではないけれど、自分には関係のある国」という存在は、世界的に人気なサッカーではそれほど珍しいものではないのかもしれませんね。
「昔好きだった選手」が、今の応援先になる

国との直接的なつながりがなくても、サッカーそのものが接点になることがあります。
今回のコメントには、昔の代表チームや選手をきっかけに応援先を決めている人もいました。
あるユーザーは、ジダン、ヴィエラ、マケレレがいた頃のフランス代表が好きだったと話しています。
別のユーザーは、2014年のW杯後からドイツ代表のファンになったと説明しました。ブラジル戦で見せたドイツの戦いぶりが、その後も応援する理由になっています。
国そのものを好きになったというより、その国の代表チームを見たときの記憶が残っているわけですね。
これはクラブサッカーを普段から見ている人なら、さらに起こりやすいかもしれません。
好きな選手が代表チームでプレーしていれば、その選手を見るために国際大会を見ることもできます。
その選手が引退しても、「あの頃のチームが好きだった」という記憶は残ります。
代表チームへの愛着が、国への愛着から始まるとは限らないわけです。
「まだ優勝していない国」を選ぶ人も
一方で、特定の国との個人的なつながりがない人もいます。
今回のスレッドでは、ポルトガル、オランダ、クロアチアを挙げて、「W杯で優勝したことがない国の中でも、特に優勝するに値する」と話す人がいました。
別のユーザーもポルトガルかクロアチアを応援したいとしています。
ここでは「強いから応援する」というより、「まだ届いていないから応援する」という選び方になっています。
ブラジルやドイツのような優勝経験国なら、すでにトロフィーを掲げた姿を知っています。
一方で、何度も上位に進みながら優勝できていない国には、「今度こそ」という別の物語があります。
自国代表がいなければ、こうした物語を持つチームに気持ちを向ける方もいるようです。
アンダードッグを応援するのには理由がある
さらに、最初から「アンダードッグ(サッカー強国ではなく挑戦的な立場にある国)を応援する」と決めている人もいました。
「いつもアンダードッグを応援する」
「小さな国、特にW杯にめったに出場しない国を応援する」
といった回答です。
別のユーザーは、どんなスポーツでもアンダードッグを応援するのが好きだとして、カナダやオーストラリア、コロンビアを候補に挙げています。
これは単なる「弱いほうが好き」という話でもなさそうです。

2007年に発表されたスポーツ心理学の研究では、競技者を「勝つ可能性が低い側」として提示すると、その相手への支持が高まりやすいことが示されています。
研究では、アンダードッグと認識されたチームに対して、より大きな努力をしていると感じ、その努力が好意につながる可能性も検討されています。
W杯では、こうした感情が大会の展開によってさらに強くなることがあるのかもしれません。
優勝候補が順当に勝ち進む試合より、予想されていなかった国が強豪を破る試合のほうが、その後も追いかけたくなる。
今回のコメントに出てくる「小さな国を応援する」という選択も、こうしたスポーツ観戦の心理と無関係ではなさそうです。
「応援する国」を一つに決めない人もいる
自国が出ない場合、最初から最後まで一つの国を応援する必要もありません。
今回のスレッドには、1994年のW杯ではスウェーデンやルーマニアをその時々で応援していたという人がいました。
1998年にはオランダを応援しながらスコットランドの結果も気にし、決勝ではブラジルが前回王者だったことを理由にフランスを応援したそうです。
大会が進むにつれて、応援する相手が変わっています。
オランダが敗退したらベルギー、その次はクロアチア。
それらの国も敗退したら、もう勝敗は気にせず「面白い試合をしてくれればいい」という人もいました。
自国代表がいる場合は、基本的に大会を追いかける理由が一つに決まっています。
ところが自国がいなければ、試合ごとに新しい理由を見つけられます。
「この国には勝ってほしい」
「この選手を見たい」
「このチームがどこまで行くのか見たい」
そんな理由で、応援する相手が入れ替わっていく。
W杯を「自分の国の大会」としてではなく、「大会そのもの」として見る時間が増える人もいるようです。
そもそもW杯は「自国の試合だけを見る大会」ではない?
FIFAによると、2022年のW杯カタール大会では、世界で約50億人が大会関連コンテンツに触れました。
決勝のアルゼンチン対フランス戦だけでも、世界で約15億人に達しています。
もちろん、この数字は「自国が出場していない人がどれだけ見たか」を示すものではありません。
ただ、W杯が代表チームのファンだけで完結する大会ではなく、世界中の人がさまざまな形で試合や選手に関わる巨大なスポーツイベントになっていることは分かります。
2026年のW杯北中米大会では、出場国が32から48に増え、試合数も104試合となりました。FIFAによれば、これはW杯史上初めて48チームが参加する大会でした。
出場国が増えれば、強豪国だけでなく、それまでW杯で見る機会が少なかった国の試合も増えます。
「自国が出ないから見る理由がない」というより、出場国の中から自分なりの見る理由を探す余地が広がっているとも考えられますね。
「どこの国を応援するか」は、国籍だけでは決まらないのかも
今回のRedditのコメントを並べてみると、応援先を決める理由にはいくつもの層がありました。
近隣国だから応援する。
家族のルーツがある。
今住んでいる。
以前住んでいた。
好きな選手がいる。
昔の代表チームが好きだった。
まだW杯で優勝していない。
アンダードッグだから応援したい。
そして、特に決めずに大会そのものを見る。
こうして見ると、「自国が出ないならどこを応援する?」という質問は、単純な第二候補を聞いているわけではありません。
その人がサッカーとどこでつながっているのかが、意外なほど表れています。
国籍が一つでも、家族のルーツは別の国にあるかもしれない。
住んでいる場所と生まれ育った場所が違う人もいます。
好きな選手を追いかけているうちに、その選手の代表チームを応援するようになることもある。
スポーツとナショナル・アイデンティティの研究でも、代表チームへの支持と国民としての帰属意識は単純に一致するものではなく、地域、国、さらにはヨーロッパなど複数のアイデンティティが重なるケースが確認されています。イングランドのファンを対象にした1,355件の有効回答を分析した研究でも、こうした帰属意識の複雑さが指摘されています。
自国代表を応援することは、もちろんW杯の大きな楽しみの一つです。
ただ、その国が出場しなかったときに「では、誰を応援しようか」と考えてみると、普段はあまり意識していない自分とサッカーとのつながりが見えてくるのかもしれません。
今回のスレッドでも、答えは一つにまとまりませんでした。
隣国を選ぶ人もいれば、家族の国を選ぶ人もいる。
昔好きだった選手を追う人もいれば、毎回アンダードッグを探す人もいる。
そして、最後まで応援する国を決めず、ただW杯を楽しむ人もいる。
「自国以外ならどこでもいい」という話ではなく、自分がなぜその国の試合を見たいと思うのか。
そこをたどっていくと、W杯で応援する国の選び方には、その人自身のサッカーとの付き合い方がそのまま表れているようです。
参考資料・翻訳元
- Reddit「POV: Your country isn’t included in the World Cup. Who else are you rooting for?」 — 今回の海外コメントの翻訳元。
- PubMed「The appeal of the underdog」 — スポーツにおける「アンダードッグ(弱者・番狂わせ候補)」への支持を扱った2007年の研究。
- Taylor & Francis「English national identity and the national football team: the view of contemporary English fans」 — 2006年W杯、2008年EURO、2009年に実施した調査で、1,355件の有効回答を分析。
- Taylor & Francis「(Dis)locating nations in the World Cup: football fandom and the global geopolitics of affect」 — W杯での応援先が「出身国か居住国か」という二択だけでは決まらず、家族・移住・メディア・選手などを通じたトランスナショナルなつながりが応援先の選択に影響することを論じた研究。
- Taylor & Francis「Who May Represent the Country? Football, Citizenship, Migration, and National Identity at the FIFA World Cup」 — W杯における国籍、移民、ディアスポラ、ナショナル・アイデンティティの関係を歴史的に分析した研究。
- Taylor & Francis「Watching the FIFA World Cup under cosmopolitanisation」 — 香港のサッカーファンを対象に、2018年W杯の応援・観戦の仕方を調査した研究。


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