夜9時15分。
日本なら、すでに夕食を終えている人も多そうな時間です。
ところがスペインでは、友人たちに「そろそろ夕食に行かない?」と声をかけたら、「まだ早い」と言われた人がいました。
友達と出かけていたとき、夜9時15分になったから「どこか夕食を食べに行かない?」って言ったんだけど、「まだ早い」って言われた。
結局、1時間後に食べに行ったよ。
ーu/Own-Veterinarian7092
海外掲示板Redditのr/askspainでは、「スペイン人は本当に平均して夜10時を過ぎてから夕食を食べるの?」という質問に、多くの反応が寄せられていました。
Do Spaniards really eat dinner so late?
by u/South-Buyer-9478 in askspain
見ていくと、さすがに「みんな毎日10時以降」というほど単純ではありません。
スレッドでは、平日は9時ごろ、外食や週末なら10時以降という人も目立ち、8時台を「早め」と感じる声もありました。
それでも、ほかの国と比べて夕食が遅い傾向そのものは、どうやら本当のようです。
平日は9時台、週末なら10時から始まることも
スペイン出身で、現在はアイルランドに暮らしているという人は、自分の以前の生活をこう振り返っています。
スペイン人で、今はアイルランドに住んでる。35歳までスペインにいたけど、普通の平日なら夕食はだいたい夜9時か9時半だった。
金曜や土曜に友達と出かけて外食するなら、夜10時から夕食を「始める」のも普通だったし、もっと遅いこともあった。
食べ終わるのは11時ごろか深夜0時。それから遊びに行く。
だから、自分の経験では、確かに夕食は遅いよ。
ーu/bshaftoe
スペイン・バレンシア地方の成人を対象にした研究では、食事時刻のデータが得られた302人について、平均すると朝食が8時10分、昼食が14時39分、夕食が21時31分でした。
同論文では、先行研究でも地中海地域はヨーロッパのほかの地域より食事時間が遅い傾向が報告されていると紹介されています。
スペイン全体をこの302人だけで代表できるわけではありませんが、夜9時台の夕食が珍しくないというRedditの感覚と大きく離れた数字ではありません。
ただ、ここで気になるのは別のことです。
朝は普通に仕事や学校へ行くのに、なぜ夜9時や10時までお腹が持つのでしょうか。
夕食だけを見ると分かりにくい
その答えとして何度も出てきたのが、「スペインでは一日の食事の置き方そのものが違う」という話でした。
ある人は、自分の周囲の食事を5つに分けています。
5回食べる。
Desayuno(朝食)は起きたとき。だいたい軽く、さっと済ませる。
Almuerzoは午前10時半〜11時半ごろ。これも軽めで、肉体労働をしている人でもなければそんなに重くない。
Comida(昼食)は13時〜15時半。これが一日のメインの食事。
Meriendaは17時半〜18時半ごろで、Almuerzoみたいな軽い間食。
Cena(夕食)は21時〜23時で、これも軽め。ただ、一日のうちにどれくらい食べたかによる。
子どもは5回全部食べることもあるけど、大人は1回か2回抜くことが多い。たいていmeriendaかcenaだね。遅めのmeriendaを食べて夕食を食べないこともあるし、朝食がコーヒーやジュースだけのこともある。
ーu/Eyelbo
なお、スペイン語の「almuerzo」は地域や文脈によって意味が異なり、昼食を指すこともあれば、ここで使われているように午前中の軽食を指すこともあります。
ここで日本人には少し馴染みが薄いのが、『merienda(メリエンダ)』です。
昼食と夕食の間に食べる軽い間食で、今回のスレッドでは17〜19時ごろという人が多くいました。
「ヨーロッパのほかの国なら夕食を食べている時間に、スペインではmeriendaを食べている」というコメントまであります。
スペインの成人1,655人を対象にした全国的な食生活調査「ANIBES研究」では、一日平均4.11回の食事機会があり、エネルギー摂取量は昼食が約39.8%、夕食が約30.5%でした。午後の間食も確認されています。
全員がきっちり5回食べているわけではありません。
それでも、昼食が遅く、その後に間食を挟む生活なら、「18時になったから夕食」という感覚にならないのは分かります。
夕方6時に夕食を食べたら「そのあとどうするの?」
逆に、スペインの食事時間に慣れた人が北ヨーロッパへ行くと、困ることもあるようです。
アイルランドに住んだ経験がある人は、こんな話をしていました。
アイルランドに7か月住んでいて、昼食と夕食の時間には慣れた。
でも、自分にとって18時に夕食を食べるのはおかしかった。夜の残り時間ずっとお腹が空くから、結局いつも夕食を2回、時には3回食べてた(笑)。
Merienda、もう一回merienda、それから寝る前に牛乳とクッキー……。
ーu/Sea_Difference_1100
別の人も、海外旅行で現地の時間に慣れるまでは、21時にレストランを探してしまうと話しています。
もっと大変なのは、旅行先でヨーロッパ式の夕食時間に慣れること(笑)。
自分たちが変な時間に食べてるのは分かってるんだけど、慣れるまではヨーロッパ各地で夜9時にレストランを探し回ることになる。
ーu/PermissionNo3384
同じ「夕食」でも、その前に何時に昼食を食べ、途中で何を食べたかによって、体感する時間はかなり違います。
そう考えると、夜10時という数字だけを取り出すより、一日全体を見たほうが分かりやすそうです。
そもそも、その時間まで働いている人もいる
もう一つ、コメントを読んでいると無視できないのが仕事の時間です。
自分は夜9時に仕事が終わる。店を閉める作業があるから、出るのは9時20分か9時半。
家に着いて、犬の散歩をして、それから夕食を食べる。その時点でもう夜10時半か11時になってる。
本当はもっと早く食べたいんだけどね。
ー[deleted]
別の人も、午後のシフトについてこう話しています。
シフト制の仕事も多くて、朝6時〜午後2時か、午後2時〜夜10時で働く人もいる。
自分は家に帰って何か作って、食べ始めるころにはだいたい夜11時。ほかに選択肢がないんだよね。
ーu/INeedMyBed
もちろん、スペインの労働者全員がこういう時間で働いているわけではありません。
実際、スレッドには8〜17時や9〜18時のオフィス勤務をしている人もいますし、子どもができて夕食を20時台へ早めた人もいました。
それでも、「みんな夜10時まで何もせず夕食を待っている」というわけではなく、仕事や家族の生活時間そのものが夕方以降まで続いている人もいるわけです。
そして、この話をさらにややこしくするものがあります。
時計です。
「スペインは時間帯を間違えている」という話
スレッドでは、かなりの人数が同じ説明をしていました。
「スペインは本来の位置より時計が1時間進んでいるから、夜10時といっても実質的には9時くらいだ」
というものです。
その中には、こんな説明もありました。
スペイン人は夜8〜9時に夕食を食べてる。ただ、時計では9〜10時って呼んでるだけ。
理由は、独裁者フランコが1940年代に、同盟相手だったナチス・ドイツと同じ時間にするため時計を1時間変えたから。
夏なら実際には夜7〜8時に夕食を食べてるけど、さらに夏時間が加わるから、時計では9〜10時になる。
ーu/MediterraneanGuy
このコメントでは、当時のスペインがナチス・ドイツの同盟相手となっていますが事実は異なります。
フランコ政権には枢軸国寄りの姿勢やドイツへの協力が見られましたが、スペインは第二次世界大戦でナチス・ドイツの正式な同盟国として参戦したわけではありません。1940年6月には「非交戦」を宣言し、1943年には中立を明確にする方向へ戻っています。
そのうえで、時間帯についても少し整理が必要です。
1940年3月7日、フランコ政権下のスペイン政府が、公式時刻を60分進める命令を出したこと自体は事実です。官報には3月16日から1時間進めることが記され、理由として「国内の時刻を他のヨーロッパ諸国の時刻と合わせることの便宜」が挙げられています。しかも、この命令には後に「通常の時刻へ戻す日を定める」と書かれていました。ところが、結局そのまま定着しました。
スペイン政府も、2018年の資料で、地理的には西ヨーロッパ時間に属する位置にありながら、1940年に中央ヨーロッパ時間を採用したと説明しています。
ただし、1940年の命令そのものには「ヒトラーへの支持を示すため」「ドイツに合わせるため」とは書かれていません。
2013年のスペイン議会資料では、当時イギリスやフランスなども戦時中に時刻を変更しており、スペインは「これらの国々と異なる時間にならないため」中央ヨーロッパ時間へ移った、と説明されています。
ですから、
「フランコがナチス・ドイツに合わせたから、今でもスペイン人は遅く食べる」
だけで説明するのは、少し単純化しすぎでしょう。
それでも「時計の1時間」は無関係ではない
だからといって、時間帯の話がまったく関係ないわけでもありません。
スペイン本土の大部分は、時計上は中央ヨーロッパ時間を使っています。さらに夏には夏時間で1時間進みます。現在もスペインでは3月末から10月末まで夏時間を使う制度が続いています。
そのため、特にガリシアなどスペイン西部では、時計で見る時刻と太陽の動きとのずれが大きくなります。
Redditで、
太陽の時間で考えれば、スペインで夜9時に夕食を食べるのは、イギリスで夜8時に食べるようなもの。
それでも遅いけど、スペインでは夜8〜9時ごろに終わる仕事も多い。
朝7時に起きて、8時から2時まで働き、2時間休んで4時から8時までまた働く。家に帰ったら、もう9時になる。
それにスペインでは、介護や経済的な理由などで家族と一緒に暮らしていることも多い。
だから自分が仕事をしていなくても、家族全員がそろう時間に合わせて食べることもある。キッチンを使う時間もまとめられるしね。
ーu/afrikatheboldone
と話していた人の感覚には、一定の背景があります。
ただ、それでも「時計を1時間戻せばすべて解決」という話ではありません。
夜9時が8時になったとしても、18時に夕食を食べる国と比べればまだ遅い。
スペインの食事時間には、時計だけでなく、遅い昼食、merienda、仕事時間、家族や友人との食事など、いくつもの要素が重なっています。
「スペインの夕食は軽い」にも異論がある
ここまで何度か、「夕食は昼食より軽い」というコメントが出てきました。
スペインの公的な食生活情報でも、夕食は昼食より軽くするという考え方が紹介されています。
ただし、Redditではここにも反論がありました。
なんでコメント欄が「スペインでは夕食は軽い」って話ばかりなのか分からない。
ピザとか、肉入りのパスタ一皿とか、豆の煮込みを「軽い夕食」と呼ぶなら分かるけど、そういうものを夕食に食べてる人はたくさんいる。週末だけの話でもないよ。
自分にとって軽い夕食っていうのは、ヨーグルトと梨とか。私の知ってる人でそういう夕食を食べてる人たちは、自分でも「夕食を食べてない」って言うくらい。
ーu/ayLotte
この意見を見ると、「軽い」という言葉にも人によってかなり幅がありそうです。
ANIBES研究では、昼食が一日のエネルギー摂取量の約39.8%、夕食が約30.5%でした。平均としては昼食のほうが大きいものの、夕食も一日の約3割を占めています。
「昼がメインだから、夜はほんの少し」というほど単純でもなさそうです。
本当に「夜10時が普通」なのか
最初の質問に戻ります。
「スペイン人は平均して夜10時を過ぎてから夕食を食べるの?」
今回のスレッドだけを見ても、答えは「全員がそうではない」です。
8時台に食べる人もいる。子どもがいる家庭では早める人もいる。平日は9時台、週末や外食では10時以降という人もいる。
バレンシア地方の研究でも、食事時刻データが得られた302人の平均夕食時刻は21時31分でした。
それでも、夜9〜10時台の夕食がごく自然に生活へ組み込まれている人が多いことは、Redditの反応からもよく伝わってきます。
そして、少し意外だったのは、夕食だけが突然後ろにずれているわけではなかったことです。
昼食が遅い。
その間にmeriendaがある。
仕事や外出も夕方以降まで続く。
時計と太陽の感覚にも少しズレがある。
そうやって一日全体を見ていくと、夜10時の夕食も、最初に数字だけを見たときほど突飛には見えなくなります。
もっとも、夜9時15分に「まだ早い」と言われたら、旅行者ならやはり少し戸惑いそうですが。
(最終更新日:2026年9月11日)
この記事に関連するおすすめ書籍
『〈図説〉食から見るスペインの歴史と文化』
マリア・ホセ・セビージャ 著/内田智穂子 訳
スペインの食文化がどのように形作られてきたのかを、歴史と地域の両方からたどる一冊です。
バスク、ガリシア、カスティーリャ、アンダルシア、カタルーニャなど各地の料理を取り上げながら、スペインの食がさまざまな文化や食材の影響を受けてきた歴史を紹介しています。
今回の記事では、夕食の時間を追っていくうちに、昼食や間食、仕事、家族との過ごし方、さらには時計の問題までつながってきました。そこからもう少し広げて、スペインの食事が歴史や地域の暮らしとどのように結びついてきたのかを知りたい方におすすめです。
参考情報と翻訳元
- Reddit「Do Spaniards really eat dinner so late?」 — スペインの夕食時間について、平日・週末の違い、merienda、仕事時間、昼食との関係、時間帯の問題などが議論されたスレッド。記事内の海外コメントの翻訳元。
- BOE「1940年3月7日付・公式時刻を60分進める命令」 — 1940年3月16日からスペインの公式時刻を60分進めたこと、その理由として他の欧州諸国との時刻調整が挙げられていたこと、後に通常時刻へ戻す予定とされていたことの確認に使用。
- 米国務省 Office of the Historian「Foreign Relations of the United States, 1940」 — スペイン政府が1940年6月に第二次世界大戦について「非交戦」を宣言したことを確認するために使用。
- 米国務省 Office of the Historian「Foreign Relations of the United States, 1943」 — 1943年にフランコ政権が中立を明確化したことを確認するために使用。スペインをナチス・ドイツの正式な同盟国と表現しないための事実確認資料。
- スペイン下院「2013年・スペインの時間帯と生活時間に関する報告」 — スペインの地理的位置とグリニッジ時間との関係、1940年に中央ヨーロッパ時間へ移った経緯、地域によって公式時刻と太陽時のずれに差があることを確認するために使用。
- スペイン政府「Creada una comisión de personas expertas para el estudio de la reforma de la hora oficial」 — スペインが地理的には西ヨーロッパ時間に位置しながら、1940年に中央ヨーロッパ時間を採用したという政府説明の確認に使用。
- BOE「2022〜2026年の夏時間の日程」 — 現在もスペインで夏時間による年2回の時刻変更が行われていることと、2026年の切り替え日程の確認に使用。
- 「Timing of Meals and Sleep in the Mediterranean Population」 — スペイン・バレンシア地方の成人を対象とした研究。食事時刻データが得られた302人で、平均の朝食が8時10分、昼食が14時39分、夕食が21時31分だったことや、先行研究でも地中海地域では食事時間が遅い傾向が報告されていることの確認に使用。
- 「Differences in meal patterns and timing with regard to central obesity in the ANIBES Study」 — スペイン全土から抽出された18〜64歳の成人1,655人を対象としたANIBES研究。平均の食事機会が一日4.11回だったことや、昼食・午後の間食・夕食のエネルギー摂取割合を確認するために使用。
- スペイン王立アカデミー「almuerzo」 — 「almuerzo」が地域や文脈によって、昼の食事だけでなく午前中に取る食事を指す場合もあることの確認に使用。
- AESAN「Cuándo y cuánto comer」 — スペインの食品安全・栄養を担当する政府機関による食生活情報。朝食、午前の間食、昼食、merienda、夕食という5回の食事が紹介され、夕食は昼食より軽くすることが勧められている点の確認に使用。
- 国立国会図書館『〈図説〉食から見るスペインの歴史と文化』 — 関連書籍の著者・訳者、2024年10月刊行、内容の確認に使用。


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