「ドイツ人は時間に正確」のイメージなのに、なぜ鉄道は遅れる? ドイツ鉄道の遅延を調べてみた

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(最終更新日:2026年9月20日)

「ドイツ人は時間に正確」というイメージがあります。

ところがドイツへ移住した海外掲示板Redditのユーザーは、ICE(ドイツの高速・長距離列車)と地域列車が次々と遅れ、乗り継ぎにも失敗したのに、周囲のドイツ人が妙に落ち着いていることに驚きました。

Can someone enlighten me on why are Germans so chill about the awful service DB provides?
by u/cvinisep in germany

中には笑いながら、「DBはDBだから。もういいよ」と話す人までいたそうです。

DBとはDeutsche Bahn、ドイツ鉄道のことです。

時間に厳しいのに、なぜ鉄道の遅れにはこんなに慣れているのでしょうか。

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「第5段階:受容」

2024年に投稿された別のスレッドでは、最も端的な回答がこれでした。

第5段階:受容。

— u/Priapous

いわゆる「悲嘆の5段階」の最後にある「受容」をもじった冗談です。

2023年のスレッドにも、よく似た反応がありました。

みんな大嫌いだし、狂ったように文句も言ってきた。でも、できることがない。血圧のためにも、もう受け入れた方がいい。

— u/SatisfactionEven508

さらに、

受け入れているからといって、納得しているわけじゃない。怒り続けるのに疲れただけ。

— u/JoeyJoeJoeJrShab

と続いていました。

どうやら、ホームで怒っていないからといって「ドイツ人は鉄道の遅れを気にしていない」ということではなさそうです。

むしろ複数のスレッドで繰り返し出てきたのは、遅れる可能性を最初から予定に組み込むという対処法でした。

大事な予定なら「1本早く」ではなく「1~2本早く」

2024年末に投稿された別の質問は、さらに直接的でした。

「ドイツ人は時間に厳しいのに、列車は遅れる。どうやって時間通りに到着しているの?」

最初の回答は、

列車が遅れると分かっているから、もっと早い列車に乗る。

— u/biepbupbieeep

でした。

返信では、

絶対に時間通り着かなければならないなら、ちょうどいい接続を調べて、その1本か2本前に乗る。

— u/SufficientMacaroon1

という説明もあります。

長距離の仕事移動では1時間、500キロを超える場合は2時間ほど余裕を見るというユーザーや、大きな技術系学会では登壇者が安全のため前日に到着していたという体験談までありました。

もちろん、Redditの体験談を「ドイツ人全員の習慣」とすることはできません。

ただ今回確認した複数のスレッドでは、「遅れを気にしない」というより、遅れを想定して自分の予定側に余白を作るという回答が何度も出てきました。

そう考えると、「時間を守りたい人」と「遅れる鉄道に慣れている人」は必ずしも矛盾しません。

時間を守りたいからこそ、鉄道を信用しすぎないわけです。

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そもそも、本当にそんなに遅れているのか

ここまではネット上の体験談です。

では、実際の数字はどうなのでしょうか。

DBの2026年8月の公式データでは、長距離列車の「運行上の定時率」は54.2%でした。

この数字は、途中駅と終着駅を含む各停車について、予定時刻からの遅れが5分59秒以内なら「定時」として数え、その割合を出したものです。

一方、乗客が予約した目的地へ14分59秒以内の遅れで到着できた割合を示す「乗客定時率」は56.6%。

こちらは単純な列車の遅れだけではなく、乗り継ぎに成功したか、運休や代替列車、ダイヤ変更、別経路なども考慮されています。

1か月だけが極端に悪かったわけでもありません。

2026年上半期の長距離列車の定時率は58.7%。一方、DBの地域交通部門「DB Regio」は88.2%でした。

つまり「ドイツの列車は全部まともに走らない」とするのも大げさですが、とくに長距離列車の定時性が深刻なのは、単なるネット上のネタではありません。

なぜ遅れる? DB自身が挙げている4つの理由

では、原因は何なのでしょうか。

2026年上半期の報告書で、DBは定時率を悪化させた主な要因として4つを挙げています。

一つ目は、インフラの老朽化です。

古い信号設備、線路、鉄道橋などの状態が悪く、故障や速度制限が発生しています。

二つ目が、大規模な工事

老朽化した設備を直すために工事を増やすと、その間は使える線路が減り、迂回路にも列車が集中します。

三つ目は、列車の過密状態です。

交通量の増加がすでに混雑している幹線や主要駅へ集中しており、限られた線路容量の中で、一つの遅れが後続列車へ波及しやすくなっています。

そして四つ目が厳しい天候。2026年初めの寒波と6月の猛暑も、設備故障などを通じて運行へ影響しました。

ドイツの国の会計検査機関にあたる連邦会計検査院も2023年、老朽化した鉄道インフラや設備故障、慢性的な容量不足を定時性悪化の問題として指摘しています。

ここまで見ると、「ドイツ人は時間に正確なのに、なぜ鉄道会社だけ時間を守れないのか」という問い自体が、少し違って見えてきます。

個人の性格というより、限られた線路の上で大量の列車を走らせながら、古い設備を直している鉄道システムの問題が大きいのです。

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しかも「直すための工事」が、いまの遅延を増やしている

少し皮肉なのは、鉄道を改善するための工事も、短期的には遅延の原因になることです。

DBによれば、2026年には約2万8000件の工事が計画され、上半期終了時点で約1万4000件が完了しました。

2026年上半期には、ドイツ政府とDBによる鉄道インフラへの投資額も、上半期として過去最高水準になっています。

ただし工事中は線路の容量が減るため、DB自身が「建設ブームが定時性へ大きな影響を与えている」と説明しています。

つまり、長年の問題を直そうとすると、その途中ではさらに列車が遅れやすくなる。

少なくとも公式資料からも、短期間で一気に解決できる単純な問題ではないことが分かります。

そもそもDBの「民営化」とは何だったのか

スレッドでは、

「昔の国鉄は時間通りだった。民営化してから悪くなった」

という説明もかなり多く出ていました。

ただ、ここは言葉の意味を整理する必要があります。

1994年、旧西ドイツのドイツ連邦鉄道と、旧東ドイツのドイツ国営鉄道が、新たに設立されたDeutsche Bahn AG(ドイツ鉄道株式会社)へ移されました。

ドイツ連邦議会調査部の資料では、この変更を「形式的民営化」と呼んでいます。

つまり、国の行政組織だった鉄道を、株式会社として企業的に運営する形へ変えたということです。

ただし、現在もDB AGの株式はドイツ連邦政府が100%所有しています。

一般的な意味で、株式を民間投資家へ売却して民間所有になった会社ではありません。

Redditでも、この違いをめぐってかなり議論になっていました。

DBは民間企業ではない。株式は100%国が持っている。

— u/PretendTemperature

という指摘に対し、

それでも国の行政機関から、企業として運営される組織へ変わったことには違いがある。

— u/Lumpasiach

という反論が出ています。

さらに2008年には、旅客・貨物輸送部門などを束ねていたDB Mobility Logistics AGの一部を株式市場へ上場する計画もありました。

しかし、世界的な金融危機で株式市場の環境が悪化し、予定されていた上場は中止されています。

ですから、

「1994年にドイツ鉄道が民間へ売却された」

と説明するのは正確ではありません。

一方で、1994年に組織の仕組みが大きく変わったこと自体は事実です。

問題は、その変化が現在の遅延へどこまで直接つながっているのかです。

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では、昔は本当に時間通りだった?

ここも資料が残っています。

1996年のドイツ連邦議会文書には、DB側から提供された当時の回答が掲載されています。

それによると、1990年から1994年5月のダイヤ改正まで、一定間隔で運行される長距離旅客列車の定時率は継続的に改善していました。

その時点では、対象となる約800本の列車のうち約680本が、定刻または最大5分の遅れで到着し、定時率は85%だったとされています。

ところが1995年のダイヤ改正以降は、約77%へ悪化。

DBはその主な原因として、乗り継ぎを増やしたダイヤ、工事の増加、車両の状況を挙げていました。

ただし、ここで85%と現在の58.7%をそのまま比較することはできません。

現在の定時率は、途中駅と終着駅を含む各停車の到着を集計しています。一方、1996年の資料だけでは、当時の85%が現在と完全に同じ対象・集計単位で算出されていたかまでは確認できません。

したがって、この数字から言えるのは、

1990年代前半にはDB側が85%という定時率を報告しており、1995年には77%へ低下していた

というところまでです。

そこから、

「1994年の組織改革が遅延を引き起こした」

と直接結論づけることはできません。

当時の資料でも、すでに工事や車両、複雑化した接続ダイヤなど複数の要因が挙げられていました。

現在のDBも、インフラ老朽化、容量不足、工事、交通量、天候など複数の原因を挙げています。

30年以上にわたる問題を「民営化」という一つの言葉だけで説明するのは難しそうです。

「受容」ではなく、遅れる前提で動く

最初の投稿者は、スレッドを読んだあと、

「時間通りに予定へ着きたいなら、車を使うか、前日に移動するくらいの余裕を持つ必要がありそうだ」

と追記していました。

もちろん、実際のドイツ人全員がそこまで極端な行動を取っているわけではありません。

ただ今回確認した複数のスレッドでは、ホームで静かに待っている人たちは、遅延に満足しているというより、何度も経験した末に対処法を身につけている、という説明が何度も出てきました。

「ドイツ人は時間に厳しいのに、なぜ鉄道の遅れを許しているのか」。

今回確認したスレッドでは、むしろ逆の説明が目立ちました。

時間を守りたいからこそ、DBが遅れることまで計算して出発している人がいる。

あのホームでの諦めた笑いは、時間にルーズだからではなく、時間に間に合わせるための経験則の裏返しなのかもしれませんね。

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