(最終更新日:2026年9月15日)
日本では、春夏の甲子園がテレビで放送され、プロ野球には12球団があり、朝のニュースでは海の向こうの米大リーグまで取り上げられます。
あまりに身近なので普段は意識しませんが、海外から日本を見ている人には、少し不思議に映ることがあるようです。
海外掲示板Redditの日本について質問するコミュニティでは、こんな疑問が投稿されていました。
「漫画やアニメを見ていると、野球が一番よく出てくる気がする。
甲子園って高校野球の大会? すごく有名だよね。
いろんなスポーツがあるのに、どうして野球なんだろう? サッカーでもバスケでも、なんならStarCraftでもよかったはずなのに。」
— u/Neat_Specific8355
StarCraftは、韓国などでも人気を集めた対戦型のコンピューターゲームです。最後の一文は半分冗談でしょうが、「なぜ数あるスポーツの中で野球なのか」という疑問そのものは興味深いものです。
実際の歴史をたどると、「アメリカから伝わったから」「昔から人気だから」だけでは、少し説明が足りないことが分かってきました。
そもそも、今でも野球はそんなに人気なのか?
まず現在の状況から見てみます。
笹川スポーツ財団が2024年に全国の18歳以上の男女3,000人を対象として行った調査では、過去1年間にスタジアムや体育館などで直接観戦したスポーツの1位は、日本のプロ野球(NPB)で12.1%でした。
Jリーグは4.4%、高校野球は3.5%です。
テレビ観戦でもプロ野球は47.4%で1位でした。高校野球は36.3%、米大リーグ(MLB)は35.1%と、野球関連の観戦率はいずれも高い数字でした。
さらに2025年のプロ野球公式戦は、全858試合で2704万286人が来場しました。1試合平均では3万1515人です。
少なくとも「昔は人気だった」というだけではなく、現在も観戦スポーツとして大きな存在であることは確認できます。
ただ、ここで少し気になる点もあります。
日本野球機構(NPB)は2026年の年頭挨拶で、公式戦の入場者数が2年連続で過去最多を更新した一方、「若年層の競技人口拡大」を喫緊の課題として挙げています。
つまり、球場へ行く人やテレビで見る人が多いことと、子どもたちが実際に野球をすることは同じではありません。
今回は「なぜ観戦文化としてこれほど大きくなったのか」を中心に見ていきます。
日本に野球が来たのは1872年
Redditでは、日本人ユーザーからこんな説明が寄せられていました。
「野球は日本でとても長い歴史を持つスポーツで、明治時代からプレーされています。日本政府が招いたアメリカ人教師によって伝えられたので、戦前は高校や大学でプレーするものという印象が強く、甲子園や大学野球は人気でも、プロ野球はそうではありませんでした。戦後、長嶋茂雄が登場してから、プロ野球が最も人気のあるスポーツになりました。」
— u/Imaginary-Group1414(日本)
後半については、もう少し丁寧に見る必要があります。
ただ、「日本へ入ってきたのがかなり早かった」という部分は確かです。
日本野球機構によると、日本に野球が伝わったのは1872年。
政府が招いたアメリカ人教師ホーレス・ウィルソンが、現在の東京大学につながる学校で生徒たちに野球を教えました。
そこで野球を経験した人たちを通じて、ほかの学校へ広がっていったとされています。
1896年には第一高等学校が横浜の外国人チームに勝利し、日本野球機構の年表では、この出来事をきっかけに野球人気が全国的に高まったとされています。
Redditでは、野球が比較的早い時期に日本へ入ってきたことを指摘するコメントに対して、投稿者がこんな返事をしています。
「スポーツにも先行者利益ってあるんだね。」
— u/Neat_Specific8355
この返信のあと、別のユーザーから「実際には1870年代に導入されている」と、より正確な年代が補足されていました。
早く入ってきたこと自体が、その後150年以上にわたる人気を保証したわけではありません。
日本の野球史を追うと、その後にもう一つ大きな特徴が出てきます。
現在につながるプロ野球リーグより先に、学生野球が大きくなった
現在の夏の甲子園につながる全国中等学校優勝野球大会が始まったのは1915年です。
1924年には現在の春の選抜大会が始まり、同じ年に甲子園球場が完成。
1925年には東京六大学野球リーグが始まり、1927年には夏の甲子園がラジオで実況放送されるようになりました。
一方、日本最初のプロチーム自体は1920年に誕生していますが、1929年に解散しています。
現在のプロ野球につながる日本職業野球連盟が7球団で発足したのは1936年です。
順番を見ると、
学校で野球が広がる。
高校や大学の大きな大会が生まれる。
ラジオで試合が伝えられる。
その後に、現在につながるプロ野球リーグが本格的に始まる。
となっています。
日本では、現在のプロ野球がすべての出発点だったわけではありません。
むしろ、その前に学生野球を見る文化がかなり大きく育っていました。
100年以上たっても残っている甲子園
その学生野球の歴史を現在まで分かりやすく残しているのが、甲子園かもしれません。
2026年夏、北北海道代表・白樺学園が甲子園で見せたダブルプレーがRedditで話題になると、プレーそのものへの反応に交じって、こんなコメントが寄せられていました。
「アメリカでは、ある意味リトルリーグこそ『国民的娯楽』みたいなところがあるけど、日本では甲子園がそれに近い気がする。誰も大金のためにプレーしているわけじゃない。ただ純粋な情熱と勝負、そして野球が好きだという気持ちでやっている。」
— u/Big_Pierogi_Energy
リトルリーグは、子どもたちが参加する少年野球の国際的な組織・大会です。
別の人は、さらに強い言葉で語っています。
「世界最高の野球大会だと思う。甲子園の決勝を現地で見るのが、自分のやりたいことリストの1位だよ。」
— u/NoVaBurgher
もちろん、これは海外の野球ファン個人の感想です。
それでも今回のコメントを見ると、プロではない高校生の大会に大きな球場と観客、全国中継があること自体を、特徴的に感じた人もいるようです。
日本人にとって「夏になると甲子園を見る」という光景は珍しくありませんが、その文化は現在のプロ野球リーグよりも古いところから続いています。
ラジオとテレビが野球を見る人を広げていった
野球が学校の中だけで盛んでも、全国的な観戦文化になるとは限りません。
そこで重要になるのが、ラジオやテレビです。
1927年には夏の甲子園のラジオ実況が始まりました。1953年にはテレビによる野球実況放送が始まっています。
球場に行かなければ見聞きできなかった試合を、ラジオや、その後普及していったテレビを通して追える環境が少しずつ広がっていきました。
実際、NHK放送文化研究所の小林利行氏が戦前の野球実況を分析した研究では、1930年前後に松内則三アナウンサーの「講談調」と呼ばれる実況が大きな人気を集めたことが取り上げられています。
研究では、こうした実況が野球ファン以外にも支持された背景を分析しています。
ラジオが野球人気を一から作ったとまでは言えません。
ただ、すでに人気のあった野球を、球場の外にいる人たちへ届ける大きな経路になったことはうかがえます。
学生野球のスターがプロへ
そして1958年、立教大学のスターだった長嶋茂雄が巨人へ入団します。
日本野球機構は当時について、東京六大学野球がプロ野球をしのぐ人気だった時代だったと説明しています。
長嶋は新人年から29本塁打、92打点で本塁打王と打点王の二冠を獲得し、その後「国民的スーパースター」と呼ばれる存在になっていきました。
最初のRedditコメントでは「長嶋の登場からプロ野球が最も人気になった」と説明されていました。
長嶋一人を日本の野球人気の原因とするのは難しいでしょう。
ただ、すでに大きな人気を持っていた学生野球のスターがプロへ移り、テレビが普及していく時代に活躍したことは、その後のプロ野球人気を考えるうえで重要な出来事だったと言えそうです。
「日本人に合っていたから」だけでは、どこまで説明できるのか
日本で野球が人気になった理由として、ときどき「団体行動を重視する日本人に合っていた」「武士道と相性がよかった」といった説明を目にします。
今回のRedditにも、野球が規律や自己犠牲、武士道精神と結びつけられてきたという見方がありました。
そうした文化的な解釈そのものを否定する必要はありません。
ただ、「日本人の国民性に合っていたから人気になった」という説明が、歴史上どれほど大きな要因だったのかを資料から確かめるのは簡単ではありません。
一方で、
1872年に学校へ野球が入ったこと。
学生野球が各地へ広がったこと。
全国大会や大学リーグが生まれたこと。
ラジオやテレビで試合が伝えられたこと。
その上に現在につながるプロ野球が成長したこと。
こうした過程は、資料から具体的に確認できます。
そのため今回の記事では、文化的な「日本人らしさ」を主な原因と決めるのではなく、まず確認できる歴史の積み重なりを中心に考えたほうがよさそうです。
そして今は、MLBまで日常の野球になった
現在の日本では、プロ野球や甲子園だけでなく、米大リーグもかなり身近な存在になっています。
2024年の笹川スポーツ財団の調査では、テレビでMLBを観戦した人は35.1%でした。
2025年3月に東京ドームで行われたドジャース対カブスの開幕シリーズでは、第1戦の日本国内平均視聴者数が全プラットフォーム合計で2500万人を超えました。
MLBによると、日本で史上最も視聴されたMLBの試合になったといいます。
大谷翔平や山本由伸、今永昇太といった日本人選手の存在が、現在の関心を押し上げていることは考えられます。
ただ、そのMLB人気も、何もないところへ突然現れたものではありません。
1872年に入ってきたベースボールが学校へ広がり、甲子園や大学野球が生まれ、プロ野球が育ち、ラジオやテレビで家庭へ入っていきました。その延長線上で、現在はMLBまで広く見られています。
「なぜ日本では野球が人気なのか?」
一つだけ決定的な理由を探すより、150年以上のあいだに、それぞれの時代の野球文化が前の時代へ重なってきたと考えたほうが、現在の姿を説明しやすそうです。
ただし、観客数が過去最高になっている一方で、若い世代の競技人口は課題になっています。
見るスポーツとしての人気と、するスポーツとしての広がり。
今後の日本の野球を考えるときには、その二つは別々に見ていく必要がありそうです。
この記事に関連するおすすめ書籍
『文化系のための野球入門 「野球部はクソ」を解剖する』
中野慧 著
日本の野球文化は、なぜ現在のような形になったのでしょうか。
甲子園や学生野球、武士道と結びつけられてきた野球観、野球部文化などをたどりながら、日本社会と野球の関係を考える一冊です。
2025年刊の光文社新書で、今回の記事で触れた「なぜ日本では野球がこれほど大きな存在になったのか」を、少し違った角度から読んでみたい人にも向いています。
参考情報と翻訳元
日本野球機構「野球伝来150年 日本野球の歴史」
1872年の野球伝来、甲子園、東京六大学、職業野球、ラジオ・テレビ中継などの年代確認に使用。
笹川スポーツ財団「スポーツ観戦率」
2024年のプロ野球、高校野球、MLBなどの観戦状況と調査概要の確認に使用。
日本野球機構「2025年 セ・パ公式戦 入場者数」
2025年の公式戦入場者数の確認に使用。
日本野球機構「2026年を迎えて」
若年層の競技人口拡大が課題とされていることの確認に使用。
日本野球機構「長嶋茂雄さんが現役時代に残した伝説を紐解く『国民的スーパースター』のすごさとは」
1950年代の東京六大学野球の人気と長嶋茂雄について確認。
小林利行「戦前の『講談調』野球実況はなぜ人気となったのか」
NHK放送文化研究所『放送研究と調査』2018年4月号。戦前の野球実況が人気を集めた背景の確認に使用。
MLB「Tokyo Series breaks records for Japan viewership, sales, attendance」
2025年東京シリーズの日本国内視聴者数の確認に使用。
Reddit r/AskAJapanese「why is baseball so popular in japan?」
日本で野球が人気になった理由についての投稿・コメントを翻訳、参照。
Reddit r/baseball「Baseball remains as the most preferred sport to watch/follow in Japan. Baseball topped the list at 45%…」
現在の日本における野球人気や、高校野球・プロ野球に対する海外ユーザーの反応を参照。
Reddit r/baseball「A scene from Japan’s Koshien. Shirakaba Gakuen, representing Northern Hokkaido, turned a fantastic double play!」
甲子園に対する海外野球ファンの反応を翻訳、参照。
Reddit r/baseball「Game 1 of the 2025 Tokyo Series averaged more than 25 million viewers across all platforms making it the most-watched MLB game ever in Japan.」
2025年東京シリーズと、日本におけるMLB人気に対する海外ユーザーの反応を参照。


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