アメリカでは、窓を開けても虫が入ってこないように「window screen」と呼ばれる防虫用の網が付いている家がよく見られます。
日本でいう「網戸」にあたるものです。
海外掲示板Redditで、アメリカの投稿者がふと疑問を投げかけました。
Why are window screens so standard in American homes but hasn’t window screen technology been adopted to the same degree in Europe, even in fairly buggy places?
by u/Logical-Concept9755 in AlwaysWhy
アメリカでは安くて単純な網戸が最初から窓に付いていることも多いのに、ヨーロッパを旅行すると、蚊がいる場所でも網戸が見当たらないことがある。
「建物の違いなのか、気候なのか、それとも単なる習慣なのか?」
そんな質問でした。
日本で暮らしていると、「窓を開けるなら網戸を閉める」という組み合わせは特に珍しくありません。
ところがコメントを追っていくと、最初の「アメリカ対ヨーロッパ」という構図からして、少し怪しくなってきます。
そもそも「ヨーロッパには網戸がない」わけではない
かなり強い調子で前提を訂正したのが、ポーランドからの参加者でした。
「お願いだから、ヨーロッパを一つの国みたいに扱うのはやめて。いろんな場所でできてるんだから。ここポーランドでは、みんな窓に網戸を付けてる。じゃないと蚊に食われまくるから。ほかの国であまり見かけないなら、蚊や刺してくる虫がそこまで多くないのかもしれない。」
— u/gambiting(ポーランド)
ベルギーからも、30年以上前から開閉式の窓と網戸を組み合わせた家があり、近所でもよく見かけるというコメントがありました。フランスの山間部では、虫が多い地域ほど一般的だという人もいます。
一方で、ノルウェーからは「見たことがない」、デンマークに5年間住んでいた人からも「見なかった」という声が出ています。
同じことはアメリカ側にも言えます。
「住んでいる場所によるよ。オレゴン州コーバリスに住んでいたときのアパートには網戸がなかったし、コロラドにある兄弟の家にもなかった。虫が少ないから必要ない。でも今住んでいるメリーランド州では、網戸なしで窓を開けたら虫に食われまくる。」
— u/ModsAwful(アメリカ)
どうやら「国」だけで考えるよりも、まず「その場所で窓を開けたら、どれくらい虫が入ってくるのか」を考えた方がよさそうです。
アメリカの網戸には、意外と長い歴史がある
では、なぜアメリカでは網戸がこれほど見慣れた設備になったのでしょうか。
少なくとも19世紀後半には、現在につながる窓用スクリーンがすでに使われていました。
1874年にアメリカで取得された特許を見ると、さまざまな大きさの窓に合わせられるスクリーンについて、「ハエ、蚊、そのほかの虫を入れない」ことが目的として明記されています。
ただし、ここで「アメリカ人がマラリア対策として網戸を発明した」と考えると単純すぎます。
網を使って虫の侵入を防ぐ発想そのものは、蚊がマラリアを媒介すると分かる以前から存在していました。イタリアでも1900年前後には、家に網を張って蚊の侵入を防ぐ試みが行われています。
それでも、アメリカでは網戸が後に「便利な虫よけ」以上の意味を持つようになります。
アメリカ南部では、かつてマラリアが大きな公衆衛生上の問題でした。
アメリカ疾病対策センター(CDC)の資料によると、20世紀前半には南部を中心に大規模なマラリア対策が行われ、1947年からは国家的な撲滅計画が進められました。蚊の繁殖地を減らすことや殺虫剤の散布などが行われ、1951年には、アメリカ国内で継続するマラリアの感染は排除されたとみなされています。
それ以前の1920年代には、家に網戸を付けることで蚊の侵入やマラリアがどの程度変わるのかを調べる試みも行われています。
ミシシッピ州レフロア郡の農園住宅を対象とした調査では、網を張った104軒で確認されたマラリア患者は24人、比較対象となった網のない104軒では84人でした。網のない家では、マラリアを媒介するハマダラカも大幅に多く確認されています。
もちろん、これだけで現在のアメリカのすべての家に網戸が付くようになった理由を説明できるわけではありません。
ただ、アメリカでは網戸が「虫がうっとうしいから付けるもの」だけではなく、公衆衛生とも結びついて使われてきた歴史があるのは確かです。
CDCが発行する感染症専門誌『Emerging Infectious Diseases』も、第二次世界大戦後、アメリカで生活水準が向上するなか、エアコンや網戸付きの窓、網で囲われたテラスの利用が増え、蚊と人間が接触する機会を減らしたと説明しています。
「虫の多さ」が違えば、必要性も変わる
スレッドを読んでいると、網戸への感覚が違う理由として何度も出てくるのが、虫の量です。
アメリカのミズーリ州に住む人は、スペインのバレンシアで網戸のない窓を経験したときのことをこう振り返っています。
「スペインのバレンシアにいる家族を訪ねたことがある。窓には網戸がなかったけど、風がすごく気持ちよくて、虫もほとんどいなかった。ミズーリに戻って同じことを試してみたけど、たぶん10分しかもたなかった。無理。
昔、ミズーリで巻き上げ式の網戸が付いたアパートに住んでたんだけど、端に小さな隙間があった。ある晩、窓を開けてその網戸を使っていたら、階下に降りたとき、ありとあらゆる面が蚊でびっしり覆われてた。終末みたいな光景だった。ここの虫事情は、本当にひどい。」
— u/Stay-off-the-grass
もちろん、「アメリカは虫が多く、ヨーロッパは少ない」と大陸単位で決めつけることはできません。
ローマやバルセロナで蚊に悩まされたというコメントもありますし、ポーランドでは網戸が当たり前だという人もいました。
逆に、アメリカのカリフォルニア州バークレーでは、近所にも網戸がなく「必要ない」という人がいます。
コメントを見ていると、単に虫が「いるか、いないか」だけではなく、どれくらい日常的に困るかも大きそうです。
窓を開けるたびに大量の虫が入ってくるなら欲しくなる。しかし一年に数匹のハエや蛾が入ってくる程度なら、「それくらいなら別にいい」と考える人もいる。
コメント欄では、その境目そのものが地域によって違っていました。
網戸を付けると、風が弱くなる?
もう一つ意外だったのが、「網戸は風を邪魔する」という話です。
冒頭のコメントでは、イタリアの家庭から「網戸を付けると風が入りにくくなる」と説明されたという体験談がありました。
これに対してアメリカ側からは「多少弱くなっても、虫が入らない方がいい」という声が出ています。
一方、網戸なしの生活に慣れた人からは、こんな意見もありました。
「虫のことをそこまで気にしてないだけなのかもしれない。それくらいしか思いつかないな。うっとうしいのは蚊くらいだし、朝起きて10〜15か所刺されてることもあるけど、別にそのまま生活する。
正直、網戸を付けようと考えたこともなかった。網戸が少し遮ってしまう光と風の方が、自分には大事だから。」
— u/mouif-mouif
10〜15か所刺されても「まあいいか」となるあたりは、好みが分かれそうです。
別の人は、カナダからノルウェーへ移った当初は網戸がないことを不思議に思ったものの、今では網のない窓から入る風や景色を気に入っていると話しています。その人が住む場所には蚊がほとんどおらず、虫が問題になっていないことも大きいようです。
同じ網一枚でも、「虫を防いでくれる便利なもの」と見るか、「風や景色を少し邪魔するもの」と見るかは、置かれている環境によって変わります。
ヨーロッパの窓には網戸を付けにくい?
建物の違いも、コメント欄で盛んに議論されていました。
アメリカでは上下や左右にスライドする窓がよく使われ、窓とは別の溝に網戸を固定できるタイプがあります。
一方、ヨーロッパでは、ドアのように内側へ開いたり、上部だけを内側へ傾けて換気できたりする「チルト・ターン窓」が広く使われています。
「ヨーロッパの多くの国では、窓の動き方が違う。スライドして開くのではなく、横に開いたり、傾けたり、その両方ができたりする。」
— u/MinimumCommon408
日本の引き違い窓と網戸のように、最初から同じレールの上を横へ動かせる構造ではないため、後から網を付けようとすると少し面倒な場合があります。
古い住宅や、外観を変更しにくい建物ならなおさらです。
ただし、「ヨーロッパの窓には網戸を付けられない」という説明も正しくありません。
欧州式の窓を製造するドイツのBildau & Bussmannによると、チルト・ターン窓にも取り外し可能な防虫スクリーンを取り付けられ、ほかにもスライド式、開き戸式、ロール式などの網戸があります。
Redditでも、ベルギーの参加者から「30年以上前から両方使っている」という反応が出ています。
窓の構造は「普及しにくくする理由の一つ」にはなっても、それだけで説明できるわけではなさそうです。
同じ虫の問題でも、選ばれた解決方法が違う
スレッドの途中で、投稿者自身が面白いことに気づいていました。
南アフリカやジンバブエでは、窓に網戸を付ける代わりに、ベッドの上へ蚊帳を張る家もあるという話が出たときです。
投稿者はこう返しています。
「そこが面白いと思う。同じような問題を、場所によってまったく違う方法で解決してる。網戸、蚊帳、シャッター、エアコン。どうしてある場所では、そのうち一つが『当たり前』になって、別の場所ではそうならなかったんだろう。」
— u/Logical-Concept9755
今回のスレッドを最後まで読むと、結局これが一番近い答えなのかもしれません。
アメリカでは19世紀後半にはすでに網戸が使われており、20世紀には蚊が媒介する病気への対策にも利用されました。戦後には、エアコンなどとともに網戸付きの住宅設備もさらに広がっていきます。
一方でヨーロッパは一つの地域ではありません。虫が多く網戸が定着した場所もあれば、それほど必要とされなかった場所もあり、窓の形や住宅の古さ、風や光をどれだけ重視するかも違います。
そして、アメリカにも「虫がほとんどいないから網戸はいらない」という地域があります。
考えてみれば、網戸があること自体が不思議なのではなく、ある設備を「最初から家に付いていて当然」と思うようになるまでの方が、意外と複雑なのかもしれません。
日本では当たり前に見える網戸も、窓から虫が何匹入ってくれば欲しくなるのか、風をどこまで遮っても構わないのかまで考えると、「当然」の境目は案外あいまいですね。
(最終更新日:2026年9月9日)
この記事に関連するおすすめ書籍
『「窓」の思想史――日本とヨーロッパの建築表象論』
浜本隆志 著
家には必ずと言っていいほど存在する「窓」ですが、その形や役割は、地域や時代によって同じではありません。
本書では、日本とヨーロッパのさまざまな文物をたどりながら、窓の造形に込められた思想や感情、文化構造の違いなどを考察しています。窓ガラスと障子、窓辺の風景、窓の風俗史といったテーマも取り上げられています。
今回の記事では網戸という小さな設備から、虫、気候、窓の構造、住宅の歴史まで話が広がりました。「そもそも窓は、国や文化によってどう違ってきたのだろう」と興味を持った方にもおすすめです。
参考情報と翻訳元
- Reddit「Why are window screens so standard in American homes but hasn’t window screen technology been adopted to the same degree in Europe, even in fairly buggy places?」— アメリカとヨーロッパ各地での網戸の普及度や、その理由について議論したスレッド。記事内の海外コメントの翻訳元。
- Google Patents「US157560A – Improvement in window-screens」 — 1874年に取得されたアメリカの窓用スクリーン改良特許。ハエ、蚊、そのほかの虫の侵入を防ぐことが目的として記されている資料。
- PubMed Central(PMC)「House modifications for preventing malaria」 — マラリア対策として住宅に網を張る方法の歴史と、1900年前後のイタリアで行われた初期の試みについて参考にした資料。
- CDC「The History of Malaria in the United States」 — アメリカ南部でのマラリアの歴史と、1947~1951年の国家的なマラリア撲滅計画について参考にした資料。
- CDC『Emerging Infectious Diseases』「History of Mosquitoborne Diseases in the United States and Implications for New Pathogens」 — 戦後のアメリカでエアコンや網戸付きの窓などが普及し、蚊と人間の接触が減ったことについて参考にした資料。
- U.S. Public Health Service / Public Health Reports「Preliminary Report of Screening Studies in Leflore County, Miss.」 — 1920年代のミシシッピ州レフロア郡で、網を張った住宅と網のない住宅のマラリア発生状況を比較した一次資料。
- Bildau & Bussmann「Insect Screens」 — 欧州式の窓を製造するドイツの企業による資料。チルト・ターン窓にも防虫スクリーンを取り付けられることや、複数のタイプの網戸が用意されていることの確認に使用。
- 筑摩書房『「窓」の思想史――日本とヨーロッパの建築表象論』 — 関連書籍の著者・内容の確認に使用。


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